「物言う株主からの逃避」の東芝買収話がそれでも先行き不透明な理由 これを機に日本の原発政策を明確化せよ

現代ビジネスに4月9日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82057

一年前から迷走中

投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズ東芝に買収提案したことが4月7日明らかになった。

東芝は取締役会を開いて対応を協議。執行役による検討チームに加え、社外取締役も投資家保護の観点から提案を検証するなど、結論を早急にまとめる方針だと伝えられている。

CVCは株式公開買い付け(TOB)を検討しているとされ、他のファンドなどにも参加を呼び掛けるという。

CVCは4月6日の終値(3830円)を3割上回る1株5000円での買い取りを提案していると伝わったことから、7日は4350円まで上昇して引けた。

東芝は、昨年7月の定時株主総会で、筆頭株主物言う株主(アクティビスト)として知られるエフィッシモ・キャピタル・マネジメントなど投資ファンドから、独自の取締役選任を求める株主提案を出された。議案は否決されたが、車谷暢昭社長の取締役選任議案への賛成は57%台にとどまった。

ところが、その総会で大株主らの議決権行使書1300通が無効扱いにされていたことが発覚。東芝は再集計したが、納得しないエフィッシモ側の要求で臨時株主総会が3月18日に開催された。

臨時総会では、7月の定時総会の運営が適正だったかどうか独立した第三者による調査を求める株主提案が出され、東芝経営陣の反対にもかかわらず、可決される異例の展開となっていた。

苦肉の策か

定時総会を巡っては、経済産業省の当時の参与が、米ハーバード大学基金運用ファンドに干渉していたことが関係者の話で分かったとロイターが報じていた。

臨時総会では、東芝の豊原正恭副社長が「昨年の定時総会で議決権を行使しなかった大株主から、ある人物から定時総会前に接触があった結果、議決権を行使しなかったと連絡を受けている」と明らかにした。

決議に基づいて3人の弁護士が選任され、3カ月以内に調査結果を報告書にまとめ公表することになっている。

そんなアクティビストの大株主に経営陣が揺さぶられている状況だったが、そこに現れたのがCVCだった。

CVCは買収後、東芝を非上場化する方針だという話が伝わっており、アクティビストを排除したい東芝の現経営陣にとっては好都合の提案と言える。

しかも、CVCは車谷社長がかつて日本法人の会長を務めていたファンドで、東芝社外取締役を務める藤森義明氏もCVC日本法人に在籍している。このことから、車谷社長ら経営陣とCVCはつながっているという見方も出ている。

とことん祟る原子力事業

もっとも、CVCによる東芝買収の実現可能性については疑問視する向きが多い。東芝原子力事業を持っており、外為法の規定によって海外企業が出資を行う際には、届出の義務が生じる。

外為法の規定というのは、政府が2019年末に改正したもので、海外企業が指定業種の企業に1%以上の出資をする場合、届出を義務付けた。

指定業種には『国の安全を損なうおそれが大きい』業種が挙げられており、具体的には武器製造や原子力、電力、通信などが対象になっている。

先日も中国ネット⼤⼿の騰訊控股(テンセント)グループによる、楽天への出資が最後まで揉めたのが、この外為法の規定だった。日本郵政などと共に楽天の第三者割当増資に参加、テンセントは657億円を出資して、楽天の3.65%の大株主になるというものだった。

 

楽天は携帯電話など通信事業も手がけるため、この規定に沿って届出が必要ではないかとの疑義が生じたが、結局、取締役の派遣など経営参画はしないという一文が契約書にあることなどを理由に、届出しなくてよい例外に該当するとして、届出を見送り、予定通り出資が完了した経緯がある。

さすがに東芝のケースでは、非上場化するためにはCVCなどが大半の株式を取得することになり、経営に関与しないとは言えない。まして、原子力事業は日本一国の問題では済まない。

関係者によると、外為法の届出は、ただ届出すればよいというものではなく、事実上の審査が伴う。しかし、どう審査し、どういうケースでは買収が認められるのかという明確なルールが示されていない。原子力発電事業を投資ファンドに委ねることはどう考えても難しいとみられる。

10年経っても国の原子力政策は定まらず

そもそも問題は、日本が原子力発電を今後どうしていくのかという方針を明確化していないことにある。

東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に世界の原発新設には急ブレーキがかかり、欧州では脱原発の動きが加速している。

日本は10年経っても将来の原発をどうするのか明確な方針を示さないまま、民間企業に任せきりの状況が続いている。一時期は原発輸出に力点を置く政策を国が打ち出したものの、実際には輸出は進まず、原発事業は採算を取るのが難しい状況が続いている。

電力会社にとっても再稼働が進まない原発がお荷物になっており、原発を国有会社に集約する案などが水面下で燻っているが、政治が決断できない状況が続いている。

そんな中で飛び出したファンドによる東芝の買収話は、日本として原子力技術をどう保持し続けるのか、原発を今後どうしていくのかという基本的な方針を改めて問うきっかけになりそうだ。