アメリカからのプレゼント

そこでイランが活路を求めたのが、ミサイルとドローンの開発だった。そのドローン開発でイランを助けたのは、何とアメリカだった。同国は2000年代に入るとドローンを使ってイラン領空を侵犯して偵察行動を行い始めた。ところが2011年12月イランのテレビが、捕獲したアメリカの無人偵察機RQ170センチネルの映像を放送した。この偵察機は、アメリカによれば事故によりイラン領内に墜落した。イランによれば「電子的な待ち伏せ攻撃」によって捕獲された。電子的な攻撃の詳細は明らかではないが、イランは偵察機のコンピューターをハッキングして乗っ取ったのだろうか。

アメリカそしてイランの説明の、どちらが正しいにしろ、ただ地対空ミサイルによる撃墜ではなかったのは確実である。というのは機体が、ほぼ無傷だったからだ。撃墜であるならば、機体は散乱するのが普通だからだ。
イランによればアフガニスタン国境から250キロメートル入ったタバスで撃墜した。タバスは、1980年にテヘランのアメリカ大使館の人質を解放するためにアメリカの特殊部隊が侵入した場所でもある。砂嵐によるヘリコプターの事故でアメリカ軍は犠牲者を出しただけで作戦を中止して撤退した。

アメリカはアフガニスタン西部のシンダンドの基地などからブッシュ元大統領の時代からイラン上空に無人偵察機を送り込んできた。首都テヘランの南郊の聖都コムやペルシア湾で無人偵察機を撃墜したとイランが発表した前例はあった。だが、これまでは機体や残骸が公開された例はなかった。なおイランでは、この頃にUFO(未確認飛行物体)を見たとの報道が多くあった。これはアメリカが、かなりの頻度でかなりの数の無人偵察機を飛ばしていた傍証だろうか。

なお同機はロッキード・マーチン社製で、2011年5月にパキスタンで殺害されたオサマ・ビンラーディンの隠れ家の監視にも同型機が使われた。また5千メートルの高度からビンラーディン殺害作戦をホワイト・ハウスに実況中継したのも同型機である。イランによれば中国やロシアが機体の調査を希望した。アメリカによればRQ170のテクノロジーは既に陳腐化している。しかしながら、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が以下のように報道している。つまり墜落した偵察機を取り戻す作戦や、爆撃による破壊も考慮された。しかし、タバスの沙漠地帯で機体をイラン側が発見する可能性は低いだろうとの判断もあって、イランとの緊張をさらに高めるような選択は取られなかった。陳腐化したテクノロジーを守るために、機体を取り戻す危険な作戦が考慮されるだろうか。爆撃が検討されるだろうか。もし同紙の報道が正しいとすれば、アメリカの説明と行動の間には整合性がない。

この機体を分解精査して、イランはアメリカの最先端の技術を入手した。リバース・エンジニアリングというカタカナが当てられる事象である。つまりイランは、アメリカのおかげでドローン技術を飛躍的に進歩させたのである。

ここで指摘しておきたいのは、イランの技術的な基礎体力である。ドローンをハッキングするほどの技術者たちをイランの教育制度が生みだしている。イランの革命政権の功罪に関しては議論があるが、その功績のひとつは教育の普及である。

世界のトップレベルの高校生を対象として開催される数学や物理などの理科系科目のオリンピックで、イランは数多くの入賞者を出している。現在イランで展開されている学生などによる反体制デモで、しばしば報道されるテヘランのシャリーフ工科大学は、世界でもトップレベルの教育・研究機関として知られている。

>>次回につづく