1982年夏、レバノンの空
このウクライナ上空を飛ぶドローン（無人機）のルーツについて語りたい。第二次世界大戦末期の1944年にドイツがイギリス空襲に投入したＶ１ロケットを戦争における無人機の使用の走りとみることができる。北ヨーロッパの海岸からロンドンに向けて多数のＶ１ロケットが発射された。V1の技術は、第二次世界大戦後にクルーズ（巡航）ミサイルへと進化する。
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だが現在のドローンに、もっと近い兵器としては、1980年代にイスラエルが使用しはじめた無人偵察機が考えられる。その開発の背景を説明しよう。
第一次世界大戦で登場し、第二次世界大戦で重要な役割を果たした航空機は、第二次世界大戦後に中東で戦われた数多くの戦争においても、引き続き大きな役割を果たした。その中でも一番目立った活躍をしたのは1967年の第三次中東戦争におけるイスラエル空軍だろうか。この戦争では、奇襲によってエジプトやシリアの空軍機の大半を飛び立つ前に破壊したイスラエル空軍が、開戦直後から制空権を握った。イスラエル空軍は、同国の6日間でエジプト、シリア、ヨルダンの軍隊を壊走させるという圧倒的な勝利に貢献した。身を隠す遮蔽（しゃへい）物の少ない乾燥地帯の中東では、空からの攻撃は特に有効だ。イスラエル軍は、１週間足らずの時間でガザ地区、シナイ半島、ヨルダン川西岸地区、そしてゴラン高原を占領した。戦争が終わった時、中東の風景は一変していた。
放送大学テレビ番組『パレスチナ問題』、第４回「スエズのかなたへ」より
その戦争で失った領土の奪回を目指して、今度はエジプトとシリアがイスラエルを奇襲したのが、1973年の第四次中東戦争の始まりだった。同年10月6日午後2時、シリアとエジプト軍の奇襲攻撃で戦争が始まった。
エジプト軍は、スエズ運河を渡ってイスラエル占領下のシナイ半島に上陸した。またシリア軍は同じく同占領下のゴラン高原へと侵攻した。不意を突かれたイスラエルは、空軍で反撃に出た。前回の1967年の第三次中東戦争でイスラエルに勝利をもたらした空の主役だった。イスラエルは、前回は奇襲でアラブ側の空軍の大半を地上で破壊した。しかし今度はエジプトとシリアの奇襲をかけたので、両国の方がイスラエル空軍を待ち構えていた。ソ連が供与した最新式の地対空ミサイルを密集配備していた。「ミサイルの森」と呼ばれた防空体制だった。これが威力を発揮してイスラエル空軍機を次々に撃墜した。結局、この戦争が終わるまでにイスラエルは百機以上の航空機を失うことになる。その大半が空中戦ではなく、地上からの対空ミサイルの犠牲であった。
スエズ運河を南から北へ向かう。向かって左側がエジプト本土、右側がシナイ半島
スエズ運河のシナイ半島側の風景
塔は第4次中東戦争の際にエジプト軍が渡河した地点のひとつに立つ「戦勝」記念碑、北朝鮮が建設したとされる。なお、北朝鮮は少数ながら空軍のパイロットを送ってエジプト軍を支援した。
イスラエル空軍にとっては、第四次中東戦争は苦い経験となった。ソ連製の地対空ミサイルに、どう対処するのか。大きな課題が残った。その課題へのイスラエルの答えが、ドローンであった。
1982年レバノン南部に拠点を構えるPLO（パレスチナ解放機構）を一掃するためにイスラエル陸軍が侵攻した。それを支援するために空軍が動員された。レバノンはシリアの影響下にあり、同国への侵攻はシリア軍との対決を意味した。問題は展開されていたシリア軍の対空ミサイル陣地のネットワークであった。1973年の戦争で多くのイスラエル機を撃墜したソ連製のミサイルとの再度の対決であった。
今度は、イスラエルはミサイル基地に対してドローン（無人偵察機）を飛ばした。シリアのレーダーが、これを捕捉し発射されたミサイルが正確にイスラエルのドローンに命中した。しかしながら、その過程でイスラエル側はシリア軍のレーダーが使用する周波数を検知した。そして、その周波数に導かれてイスラエルの空軍機がシリアのミサイル基地に向けて空対地ミサイルを発射した。その結果、シリアの地対空ミサイル基地が、おとりのドローンを撃墜しただけで全滅した。第四次中東戦争でイスラエル空軍を苦しめた「ミサイルの森」が枯れた瞬間だった。以降イスラエル空軍はレバノン上空の制空権を掌握した。
1982年の夏レバノン上空での勝利以来、イスラエル空軍は無人偵察機の技術で世界をリードしてきた。この無人偵察機が現在のドローンの技術的な直接のルーツだと考えられている。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/59/IAI-Scout-hatzerim-1.jpg
イスラエル軍が使用した無人偵察機
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