コロナ危機はこれまでの不況と違う、早急に「弱者」への救済策整備を

SankeiBizに連載中の「高論卓説」に1月13日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)による経済危機が雇用にも大きな影響を与えている。昨年末に総務省が公表した「労働力調査」の11月分では、就業者数・雇用者数ともに8カ月連続のマイナスになった。1回目の緊急事態宣言が出された2020年4月からマイナスが続いていることになる。

 

 ところが、この調査をよく見ると不思議なことが起きている。正規の職員・従業員は緊急事態宣言が明けた6月から6カ月連続で増え続けているのだ。11月を前年同月と比べると21万人、0.6%増えている。正規雇用が増えているのに、全体で雇用者数が減っているということは、非正規雇用の減少がそれだけ大きいということである。11月の非正規職員・従業員の減少数は62万人も減った。率にして2.8%の減少だ。非正規の減少は新型コロナの影響が経済に及び始めた昨年3月から続いている。

 それでも11月はまだましだったとも言える。10月以降、「Go To トラベル」キャンペーンに東京も加わったため、にぎわいがいく分戻ったからだ。「宿泊業・飲食サービス業」の非正規雇用は、9月が前年同月比33万人減だったのが、10月は26万人減、11月は18万人減と、減少幅が小さくなりつつあった。

 1月7日に1都3県に緊急事態宣言が再び出され、飲食店などに営業時間の短縮が要請された。営業短縮によって、「宿泊業・飲食サービス業」の雇用者、特にパートやアルバイトなどの非正規雇用者に甚大な影響を与えることは間違いないだろう。アルバイトとして時給で働いている人は、店が閉まれば時給が入ってこなくなる。雇用調整助成金の特例などでアルバイトも救済対象にしていると厚生労働省は言うが、零細事業者や個人事業者はそもそも雇用保険に入っておらず、申請手続きすら行っていないところが少なくない。

 こんな環境でも正規職員が増えているのは、雇用調整助成金の拡充で中堅企業などは、仕事が激減していても解雇を避け、人員を抱え込んでいることが一因だろう。だが、これも会社の規模が一定以上で、助成金申請などの手続き経験があるところが中心だろう。飲食店の零細経営者などは、どんなに簡単だといわれてもなかなか申請できない人もいる。

 これまで不況は「川上」からやってくるのがパターンだった。大企業の業績が悪くなって、それが下請けの中小企業や、サラリーマンを相手にする飲食店などにじわじわと広がってくる。そうした従来型の不況ならば、一定以上の規模の企業を雇用調整助成金などで支えれば、働き手に与える影響を最小限に食い止め、不況を乗り切ることができた。ところが、今回の新型コロナショックは一気に現場の飲食業や宿泊業などを襲った。経営力の弱い事業者に大打撃を与え、そこで働く立場の弱い非正規従業員に真っ先にしわ寄せが行っているのだ。

 雇用調整助成金は1月7日時点で、既に累計で222万件の支給が決定され、支給総額は2兆5000億円を超えた。だが、その資金は十分に現場の弱い立場の非正規従業員にまで届いているとはいえない。各地の社会福祉協議会が窓口となって低所得世帯の生活再建のために小口資金を貸し付ける生活支援費の融資件数は既に50万件を突破したという。生活保護の申請なども呼びかけているが、なかなか手続きが増えないともいわれる。本当に必要な人に届く支援策を早急に整備する必要がある。