「五輪延期ショック」到来…!ここにきて消費の底が抜け落ちる 上半期は「強烈な減退」を覚悟せよ

現代ビジネスに連載中の『経済ニュースの裏側』に3月26日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71366

2月の百貨店売上高12.2%減

10月の消費増税以降、大きく落ち込んでいた消費の底が抜けた。新型コロナウイルスの蔓延で、日本を訪れる旅行客が激減、インバウンド消費が落ち込んだことが追い打ちをかけた。日本百貨店協会が3月24日に発表した2月の全国百貨店売上高は3661億円と前年同月比12.2%も減少した。

対前年同月割れは5カ月連続で、増税直後の2019年10月の17.5%減以降、11月6.0%減、12月5.0%減、1月3.1%減とマイナス幅が縮小していたが、2月は再び2ケタの減少となった。前々回の消費増税で税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月の12.0%減に匹敵する激震が襲った。

とくにインバウンド消費は壊滅的。訪日旅行客が百貨店で免税手続きをして購入した売上高は110億2000万円と、前年同月比65.4%減と3分の1に落ち込んだ。JINTO(日本政府観光局)の推計によると、2月に日本にやってきた訪日外国人旅行者は108万5000人。前年同月比58.3%減と半分以下になった。

1月27日以降、中国政府が団体海外旅行を禁止したことで、中国からの旅行客が87.9%減とほぼ10分の1となったことが響いた。外交関係が悪化していた韓国からの訪日旅行者も79.9%減となった他、台湾44.9%減、香港35.5%減、シンガポール24.9%減など、アジアからの旅行者が一気に落ち込んだ。

とくに日本で買い物する金額が大きい中国からの旅行者の激減は、百貨店の売り上げを直撃した。

訪日客によるインバウンド消費が多かった大阪の百貨店で売り上げ減少が大きく、21.0%も減った。次いで観光スポットの多い京都が18.4%減、神戸が14.4%減だった。大型クルーズ船の寄港や韓国からの旅行者が多かった福岡も13.8%減少した。また、コロナウイルスへの感染者が広がり活動自粛がいち早く行われた札幌は25.8%減と百貨店消費が凍りついた。ウエートの大きい東京も12.8%減だった。

商品別では外国人観光客に人気の化粧品が26.4%減と大きく落ち込んだほか、ハンドバッグなど「身の回り品」が16.7%減。暖冬の影響で冬物が売れなかった「衣料品」が15.9%も落ち込んだ。高級品消費の動向を示す「美術・宝飾・貴金属」も6.6%減とマイナスになった。

先に行くほど深刻化

しかし、2月の消費激減はまだ序の口かもしれない。

2月1日から日本政府は、新型コロナの蔓延が始まった武漢市を含む湖北省からの外国人入国を規制したが、中国と韓国からの入国制限強化に踏み切ったのは3月9日。2月段階では減ったとはいえ、かろうじてインバウンド消費が残っていた。

実際、百貨店で免税で購入した客の数は13万4000人と66.5%減ったが、それでも中国本土からの旅行者の免税購入が最も多かった。3月はこの中国からの旅行者による購入がさらに激減することは明らかで、インバウンド消費はさらに落ち込むことが確実だ。

一方、国内の消費の落ち込みも3月はさらに大きくなるとみられる。2月の百貨店売上高から免税売上高を引いた「国内売上高」は7.8%減だった。

安倍晋三首相の要請で3月2日から全国の小中高校などが一斉休校になり、会社などにも在宅勤務が広がったことから、3月は国内消費の落ち込みがさらに顕在化することになりそうだ。

4月に入って新型コロナの蔓延が収まるかどうかは微妙な情勢だ。

4月は桜のシーズンで本来ならば海外からの旅行客が押し寄せるシーズンで、訪日旅行客の数は春節よりも多く、夏休みの7月についで2番目に多い月だ。

今年は4月の訪日客が3月以上に落ち込む可能性が高く、インバウンド消費をあてにしていた観光地や百貨店などは大打撃を被ることが確実だ。

消費減税論、復活か

東京オリンピックパラリンピックの1年延期が決まり、夏に向けた消費回復のシナリオも潰えた。2019年に3188万人と過去最多を記録した訪日旅行客数は、オリンピックとパラリンピックに伴う観客や関係者の増加もあり、増加を見込んでいた。

政府は2020年に4000万人突破を掲げていたが、1、2月の累計で前年よりも29.2%も減少しており、目標達成は絶望的になった。

自民党公明党は国民1人当たり10万円の現金や商品券を給付する緊急対策を検討しているが、仮にそれが全額物品購入に回ったとしても、消費を底上げする力には乏しいとみられる。

国際的な人の移動が新型コロナ前に戻るにはかなりの時間を要するとみられ、インバウンド消費が早期に元に戻る可能性は低い。

消費税率を引き下げる案も検討されたが、「消費を下支えする効果は乏しい」(自民党幹部)との声が多く、当面、見送りになった。

もっとも、新型コロナが終息し、消費が下げ止まった段階になれば、消費を回復させる効果があるという声も根強く、追加の景気対策としていずれ消費減税が打ち出される可能性は消えていない。

2019年4月や2019年10月の消費増税が消費に与えたインパクトは大きく、消費を本格的に回復させるには、給与など所得の増加と並んで消費税率の引き下げが効果的だとみられる。

いずれにせよ2020年前半は猛烈に進む消費の減退をどう食い止めるかが大きな課題になる。