梶ピエールのブログ

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中国共産党は人民の不在にどう向き合うのか

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中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し外出制限など行動規制が強まる中、各地で住民らによる抗議活動が激しくなっている。3カ月以上も部分的な封鎖が続いた新疆ウイグル自治区ウルムチ市では、25日夜に大規模な抗議行動が発生し、当局が対応に追われた模様だ。抗議が広がった背景に、市内で24日に起きた大規模火災があるとの指摘も出ている。

 市民の抗議の動きは、上海市をはじめ各地で広がっており、微博などのSNSでそれが拡散されるというこれまでにない事態が生じつつあるようです。中央政府がどのような形で事態の収束を図るのか、予断を許しませんが、とりあえずこのような混乱を理解するうえで、今年9月に刊行された現代中国学会の学会誌『現代中国』に寄稿した「中国共産党は人民の不在にどう向き合うのか」という一文の最後に記した一節(文言には若干の変更あり)が役に立つのではないかと考え、シェアしておくことにします。

 本稿では、ウィットフォーゲルによる「水力社会」論を一つの手がかりに、資本主義的な発展の類型論として現在の中国の経済発展をとらえ、そこに内包された「アジア的社会」としての特質、およびそこから生じる諸問題について考察してきた。本稿でも触れたように、改革開放期以降の中国は、社会の目標を功利主義、すなわち最大多数の最大幸福に置き換えることで、これらの諸問題を「解決」することに成功したかのように見える。しかし、実際には「アジア的社会」としての中国の諸問題は後景に退いただけで、解決されたわけではない。本稿でも見てきたように中国が資本主義的な発展を続け、持てる者と持たざる者の間の「人民内部の矛盾」が拡大する中で、その矛盾を解決するとして「権力が人民の敵を名指しする」というアジア的専制から受け継がれた手法がまた用いられることになったからだ。

 そのことを端的に示すのが、2020年以降のコロナ禍、なかんずく2021年の年末以降重症化リスクの低いオミクロン株が主流になってからの中国社会の混乱である。
 2022年に入ってから新型コロナウイルスへの感染者の増加が続いていた上海市では、3月28日から5月末までの間、2か月間にわたって全面的なロックダウンが行われた。ロックダウンの過程で、物流が滞り食糧調達が困難な状況が生じていることや、多くの住民が先の見えない不安にストレスを募らせている模様がSNSを通じて国外にも広く知られるようになった。全面的な都市封鎖に至らなくても、マンション内で1人でも感染者が出れば居住者の外出禁止を新規感染者がゼロになるまで続けるという「動態清零(ダイナミック・ゼロコロナ)」は多くの都市において実施されている。感染力が強く、重症化しにくいオミクロン株に対しても過去の成功体験から脱却できずに、ゼロコロナ政策に固執する習近平政権の姿勢には、海外はもちろん国内においても疑問の声が上がってきている。
 このような明らかに非合理なゼロコロナ政策への固執が維持されるのも、それが専制権力によって示された「天から降ってくる真理」であるからにほかならない。このような「人民」不在の政策をいつまで続けるのか、あるいは続けられるのか。もはやその影響は中国だけにとどまらないだけに、その行方をこれからも注視しなければならない。