大前研一「ニュースの視点」Blog

KON867「東京五輪・パラリンピック/北京冬季オリンピック~日本の政治家の中に森氏に意見できる人がいないというのが問題」

2021年2月15日 北京冬季オリンピック 東京五輪・パラリンピック

本文の内容
  • 東京五輪・パラリンピック 森氏が自身の発言について陳謝
  • 北京冬季オリンピック 中国、北京五輪へ懸念

森氏を大義名分にして五輪中止に持っていく流れが出来上がった


東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は4日、日本オリンピック委員会(JOC)の女性理事増員の方針をめぐり「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したことについて、軽率な発言でお詫びしたいと陳謝しました。

しかし海外メディアは、女性蔑視にあたるとして森氏を批判しています。

この発言1つを取り上げて、各キュレーションサイトなどでは様々な人が批判のコメントを寄せています。

森氏は不適任とし会長職を辞めるべきという論調が強くなっています。

そして「森氏の辞任=東京五輪を中止」と同義になってきており、東京五輪の落とし所に森氏の進退を利用する、という方向に進みつつあります。

東京五輪を中止にせざるを得ないなら、森氏を道連れに最後に責任を取らせてしまった方が、各関係者にとっては楽だからでしょう。

「東京五輪を決行すべきか?中止すべきか?」IOCのバッハ会長もWHOも決めかねていますし、中止するにしても最初に言い出したくないと思っているはずです。

NBCはまだスポンサーが降りていないので開催の意向を示していますが、今後の状況によってはすぐに方針を変更するでしょう。

おそらく最終的には、米国またはEUの主要国のいずれかが選手派遣をやめると決断したときに、NBCが五輪の中止を決断することになると思います。

そして、東京五輪中止の責任の一端を森氏に負わせることでスムーズに話が進んでいくことになると私は見ています。





森会長は「半径50cm」を得意とする人物


私は森氏のことをよく知っていますが、森氏は「理性で語る」というタイプの人物ではありません。

政治家として大きな枠組みを定義し、構想力や知的パワーを発揮することは苦手です。

逆に、半径50cm以内の親密な対人関係の構築を得意とします。

地元でも石川県全体の問題に取り組むというよりも、「能登半島に空港を作りましょう」というような具体的なことに取り組んできました。

このように地元の人にとって身近な話題で関係性を構築するので、非常にわかりやすく評判が良いのです。

この能力を活かした代表例は、ロシア(旧ソ連)との関係構築でしょう。

プーチン大統領とも仲が良く、良好な関係性を保っています。

プーチン大統領は知的な戦略外交で攻めてくる人物を嫌いますから、森氏は適任だったと言えます。

非常に性格の良い人だと私は思いますが、一方で今回の五輪開催といった複雑な問題を解決する役割には適していません。

そして「男女も人種も差別をしない」という五輪の精神を理解しているのか?と問われれば、おそらく森氏は本当の意味では理解していないと私は思います。

こんなことは政治家なら誰しもわかっているはずですが、日本の政治家の中に森氏に意見できる人がいないというのが問題です。

五輪開催が現実的に難しい状況になりつつある今、森氏の役割は東京五輪の開催中止について責任を負うことだけになりつつあります。

私に言わせれば、それでも役割を果たしてくれるのであれば、ありがたいと思います。

こっそりと五輪の議論から遠ざかり、責任を負わない立場に逃げている小池都知事に比べれば、潔いと感じます。





北京冬季五輪の開催可否が東京五輪に影響する可能性


日経新聞は4日、「中国、北京五輪へ懸念」と題する記事を掲載しました。

2022年2月4日に開幕する北京冬季五輪まで1年となり、施設がほぼ完成しました。

2022年秋の共産党大会で成果を誇示するため、習近平国家主席にとって北京冬季五輪の開催は譲れないものですが、この北京冬季五輪をめぐってはウイグル族への人権侵害を理由に英国などがボイコットの可能性を示唆しており、中国は警戒感を強めているとのことです。

かつてのモスクワ大会のように、北京冬季五輪でもボイコットする国が出てくる可能性はゼロではないと思います。

とは言え、中国に対して「おべんちゃら」の姿勢を示す国も多いので、ボイコットしない国も必ず残ると思います。

その中で北京冬季五輪の開催についても議論が行われることになると思いますが、この議論は東京五輪にも影響します。

例えば英国などがボイコットを表明し、東京五輪よりも先に北京冬季五輪が開催できないという状況になったら、東京五輪への参加を取りやめる国が続々と出てくる可能性が高いと私は見ています。

そもそも来年の今頃であっても、まだワクチンは世界的に広がっていないでしょうから、参加は厳しいと判断する国も出てくると思います。

その北京冬季五輪より半年も開催が早い東京五輪の方が、さらに状況が厳しいのは言うまでもありません。





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※この記事は2月7日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は東京五輪・パラリンピックのニュースを大前が解説しました。

大前は金銭負担等を懸念し、オリンピックの中止に言及できない各団体や企業の状況を解説しています。

複数の利害関係者が関わっているプロジェクトの場合、マネジメントの複雑性・重要性が高まります。

各利害関係者の立場や考えを深く理解し、さらに、交渉する力も重要になってきます。





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