イスラエルと中国の関係が米国をいら立たせている。


近年、中国の中東進出が目立つ。その中でもイスラエルとの関係が深まっている。たとえば両国間の年間の貿易額はすでに1兆5千億円を超えている。イスラエルの中国への輸出で重要なのはハイテクである。これにワシントンが神経質になっている。ワシントンでの対中警戒感の高まりから、だんだんと米国などからのハイテクの導入がむずかしくなっている中国は、その埋め合わせでもするかのように、イスラエルからハイテクの輸入を増加させている。


イスラエルのハイテク産業は米国との関係が深い。結果としてイスラエルという裏口から米国のハイテクが中国に流れている。少なくとも米国は、そう認識している。そしてこれが、米国・イスラエル関係の摩擦要因となっている。イスラエルが輸出するハイテクによって中国軍が強くなるからである。将来、米国と中国が台湾を巡って衝突する場合、イスラエルが提供したハイテクで強くなった中国軍が米国将兵を殺害するというシナリオさえ描ける状況である。米国のいら立ちが想像できる。


もう一つ米国の神経を逆なでしているのが、中国のイスラエルへのインフラ投資である。鉄道や港湾へ中国資本が投下されている。とくに港湾への投資が米国をいら立たせている。


というのは、対象の一つがイスラエル北部の重要な港湾都市ハイファだからだ。ハイファ港にコンテナを扱う新しいターミナルが、この9月にオープンした。これに、中国が17億ドルを投じている。そして、その管理運営を中国企業が担になっている。


ハイファ港は米国の第6艦隊、つまり地中海などを守備範囲とする艦隊の寄港地である。その港の一部の管理を中国企業が担うとなると、軍事機密の保持の面からも望ましくないと米海軍は懸念している。これまでは、そうした懸念を無視する形でイスラエルは中国との関係を深めてきた。だが、バイデン政権の対中姿勢の強硬さがイスラエルに中国との関係の再検討を迫っている。


中国とイスラエルの関係の深まりは最近の現象だが、ユダヤ人と中国は古くからの関係がある。


シルクロードとインド洋を通じた交易が中国にユダヤ人をもたらした。中国大陸の沿岸部分には20世紀の初頭までユダヤ人のコミュニティが、同化されずに残っていた。最近、イスラエルとの関係が深まると、もともと自分たちはユダヤ教徒だったと主張する中国人が現れ、一部はイスラエルへと移住している。


また、もともとイラクのバグダットに生活していたユダヤ人たちが、中国の近代史に大きな足跡を残している。19世紀バグダッドの富裕なユダヤ人たちが、当時のオスマン帝国下での税金の引き上げを嫌い、インドのボンベイに移住した。現在のムンバイである。


そして、イギリスの中国進出とともに上海や香港に拠点を築いた。たとえばサッスーン家などは、アヘン貿易で巨富を蓄積した。その富の象徴がサッスーン・ハウスと呼ばれる1929年に完成した豪華な内装の建物である。現在では和平飯店あるいはピースホテルとして知られている。当時の上海では、揚子江沿いに、ニューヨークのマンハッタンと競うような高層ビル群が建設されていた。この頃から上海は魔都と呼ばれている。中国革命前は、上海はマンハッタンのようにジャズの流れる摩天楼の都市だった。1948年に共産党が勝利を収めると、上海のユダヤ人たちは香港などに移住して資本を移した。ホンコンの超高級ホテル・ペニンシュラは、そうしたユダヤ人の所有である。


現代の国際政治に話を戻すと、イスラエルのハイテク技術の対中輸出に神経を尖らせているのは、軍関係者のみではない。イスラエル発のハイテクがウイグル人の監視など、人権の弾圧に利用されているのではないか。そうした懸念の声も聞こえる。これがイスラエルのイメージを傷つけている。米国では軍と人権ロビーの両方が、冷たい視線でイスラエルと中国の接近を見つめている。


-了-


※『まなぶ』(2021年11月号)42~43ページに掲載された拙文です。出版元の了承を得てアップします。