だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

愛知県小牧市

2021-07-03 07:53:29 | Weblog

 今日は愛知県小牧市を訪問した。蒲郡市の公共施設マネージメントの委員会での視察だ。今年新しくオープンした小牧市中央図書館とこまきこども未来館を視察した。

 小牧市は濃尾平野の真っ只中の平らな土地に、ぽっこり小牧山が浮かんでいる地形をしている。戦国時代の山城ができる絶好のポイントだ。ここに最初にお城を作ったのは織田信長とのこと。城下町もできた。江戸時代になると、街道が交差する場所として宿場町として栄えた。戦後は名神高速道路が通り、そこに中央高速道がつながる場所となり、やはり交通の要衝となった。そのおかげで工場がたくさん立地して工業の町となるとともに、名古屋のベッドタウンとなった。

 名鉄小牧駅周辺が中心市街地ということで町を歩いてみた。残念ながら、街としての「顔」がない。まず商店街がない。かつての宿場町だったところが商店街だったようだが、見事にシャッターが下りている。お昼ご飯を食べようとしたが、そのようなお店はなく、喫茶店すらない。駅前の再開発ビルの中のショッピングモールのフードコートで食事をした。駅前は比較的新しいマンションが林立している。名古屋のベットタウンということだ。

 駅前の活性化は小牧市の長年にわたる課題となっていたようで、再開発ビルはその課題に応えるために官民共同で作られたらしい。しかし、よくある話だが、なかなか商売はうまくいかず、テナントが定着しない。再開発ビルの横にも敷地が確保されていたが、そこは長く利用方法が定まらず、市営の駐車場となっていたとのこと。

 その場所に中央図書館が建設された。これも紆余曲折があったとのこと。古くなった図書館を建て替えることになり、市は運営を民間の指定管理に出すことにして、それをツタヤが受託することになった。ツタヤの意見も入れつつ建設計画が立てられた。それに対して市民の中に反対運動が起こり、その計画の是非をめぐって住民投票となった。その結果は計画に否定的な意見がまさり、いったん計画は白紙となった。

 その後は図書館計画を作る審議会を置き、市の直営で運営するという基本方針を出したのちに、中学生、高校生、市民のワークショップを繰り返し行って計画を作った。そうやってできたのがこの中央図書館だ。

 市民の意見として出てきたのは、新しい図書館に求めるものは「居心地の良い滞在型の空間」だった。ゆっくりくつろいで閲覧できるスペースやカフェ・飲食スペースが求められた。実際にできた図書館はその意見を実現したものになっている。

 吹き抜けの多い余裕のある空間に、カフェの席のようなテーブルと椅子。一人がけの席はちょっとした書斎机のようだ。照明がよく考えられていて、しっとりとしたおしゃれな雰囲気だ。びっくりしたのは、館内にBGMが流れていることだ。また席で飲み物を飲んでも良い。1階にはスターバックスが入っていて、そこで買った飲み物を館内で飲みながら本を読むことができる。席でおしゃべりしても良い。つまり、図書館全体が本を読めるカフェとなっている。一方で、静かな環境で勉強したい人向けに、特別に「サイレントルーム」が用意されていて、館内の端末で席を予約して利用する形になっている。

 子どもの本のコーナーはとても広く充実してる。壁に埋め込んだような小さな部屋がいくつも作ってあり、子どもが何を喜ぶかをよく考えた作りになっているのも感心した。

 公共施設としてかなり贅沢な作りである。図書館長に話を聞くと、図書館の機能だけの話ではなく、駅前活性化のための中核施設として考えられたこと。また市としてこれが最後の大型公共施設かもしれないということで、ある程度思いきった予算配分をしたようだ。実際に、図書館ができてから、館横のスペースに週末にはキッチンカーが並ぶようになり、町の雰囲気が少し変わってきたという。

 こども未来館は隣の例の再開発ビルの中にある。テナントが撤退して長く空きスペースになっていたところに、老朽化して対応が求められていた児童館がリニューアルして入った形だ。周囲はマンションが多く、子育て世代が多く入居している。そこに住むこどもたちにとって便利の良いところだ。

 4階は就学前の幼児のためのスペース。親子で楽しく過ごすことができる。絵本図書館があり、跳ねたりとんだりできる遊具がたくさん置いてある。3階は小学生向けのスペース。大きな遊具がたくさん置いてある。圧巻なのは「シンボルツリー」と名付けられた、2階から4階までの吹き抜けを作り、そこに網のお城のような遊具が設置された。こどもたちが賑やかに走り回っていた。2階は中高生向けのスペース。卓球台が人気だ。ボードゲームができるテーブル。鏡張りのダンススタジオ。完全防音の音楽スタジオにはキーボードとドラムセットが備え付けてあった。2階には大きいこども用の、4階には幼児用のボルタリングの壁が作ってあった。

 とにかくデザインが良い。フロアごとにテーマがあって、2階は森、3階は空、4階は虹とのこと。それらを連想させる色使いで空間のデザインが統一されている。

 3階にはガラス張りの教室のようなスペースがあり、各種の体験講座が実施されている。その中にはプログラミングやドローンの操縦などの講座もある。一つの部屋は入り口が真っ暗だ。中に入ると、そこは壁にボールをぶつけると、そこを中心に花火が弾けるような映像が映し出される。地元の芸術大学の学生たちが作ったものだという。

 とてもよく考えられている施設で感心した。その設計のプロセスを聞いたところ、ここでもこどもたちと市民のワークショップを繰り返し行って計画を練ったという。合計十数回のワークショップをやったようだ。そこで出てきたコンセプトが「未来リテラシーを育む−子どもたちの未来を切り拓く力を育む施設」だ。この理念がしっかりしていたから、ぶれずに細部にいたるまでの設計ができたのだと思う。

 ワークショップに参加した市民は、開館後にはサポーターという運営ボランティアとして活躍している。その数130人というからこれにもびっくりした。

 中央図書館とこども未来館が出来たことで、中心市街地の空気が変わったことは間違いない。こどもたちを含む市民の意見をよくくみ取ったことが、良い施設が実現できた最大の理由だろう。大いに学ぶところがあった。

 一方で、その空気は公共施設の内部だけで実現しているのが残念なところだ。街並みの中に、個性的なお店やカフェができて街全体がいきいきとしてくると良いのだが。その道のりはなかなか見通せないようだ。ただ、これまでは駐車場だけだったスペースに、キッチンカーが来るようになったのは、町の賑わいを作り出す良いきっかけになるだろう。今後の取り組みに期待したい。

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