第18回日本キャリアデザイン学会研究大会(2)

 昨日の続きで週末に開催された日本キャリアデザイン学会研究大会の感想です。1日め午後の自由論題では中大の佐藤博樹先生と法大の松浦民恵先生の報告も興味深いものでした。松浦先生は連続でのご登場となりました。
 在宅勤務の拡大などで人事管理上注目されている仕事と仕事以外の「境界管理」に関する調査で、仕事が生活に入り込んでいる「仕事優先」、生活が仕事に入り込んでいる「家庭優先」、双方がある「統合」、双方ともない「分離」の4タイプを、さらに意識的に境界管理に取り組んでいる「能動型」とそうでない「受動型」とに分けた8類型および上司・企業のワークライフバランス支援と、エンゲージメントや生活満足度、時間利用の満足度、仕事との心理的距離の確保および疲労回復との関係を明らかにしたものです。
 結果としては、8つの類型とエンゲージメント等の関係では、統合・能動型が最も高くなっており、エンゲージメントについては分離型を除いて有意に高くなっている一方、生活満足度については受動型がすべて有意に低い一方で能動型では有意な結果が得られていないようです。これは仕事との距離感や疲労回復でも同様の結果となっており、境界管理の能動性が重要であるように見えます。さらに上司・企業の支援を加えた分析では、上司・企業の 支援はどちらもすべてに対して有意にプラスであるなどの結果も示されています。
 結論としては統合・仕事優先・分離のそれぞれの能動型が、エンゲージメントも生活満足度も高く、企業・従業員双方に望ましい働き方であり、境界管理を能動的に適切に実施できることは企業にとっても重要と考えられること、加えて上司・企業によるワークライフバランス支援が必要であるということのようでした。
 私の感想としては、これはその場でも申し上げたのですが、受動型から能動型になることが望ましいということは非常に納得のいくものではあるのですが、受動型に甘んじざるを得ないのは仕事の問題というよりは例えば小さな子どもがいるといった家庭的な要因や業務に集中できるスペースが住宅内で確保できないといったインフラの要因などに規定されていて、これに企業が介入して能動型に変えるというのもなかなか難しいのではないかと思いました。もちろん、だからこそ上司や企業の支援がより重要となるのだ、というのもわかるのですが。
 さて1日めは自由論題セッションに続いて会場校(大正大学)企画として「時空を超えた学びの可能性 ─ 大正大学での実践例 ─」という実践報告がありました。
 大正大学は周知のとおりもともとは多宗派(天台宗真言宗豊山派真言宗智山派・浄土宗)の連合により見学された仏教系大学であり、こんにちも仏教学部は存在しますが、その他の学部は社会共生学部、地域創生学部、表現学部、心理社会学部、文学部となかなかユニークな構成になっています。中でも社会共生学部と地域創生学部は2016年に新設された新しい学部であり、地域に根差した文系総合大学を目指しているようです。
 今回は地域創生学部における地域に根差したフィールドワークによるアクティブラーニングの取り組みが紹介されました。はじめに大正大学内に設置されている地域構想研究所の阿南支局長である鈴江省吾さん、同じく藤枝支局長である天野浩史さんから実践報告がありました。鈴江さんは阿南市役所の元課長さんで、天野さんは藤枝を拠点に教育支援活動に取り組んでおられる方とのことです。さらには学部生の方からも体験報告があり、なかなか意欲的な実践が行われていることを伺わせる、たいへん充実した報告でした。
 感じたのは、これは玄田有史先生も指摘しておられたのですが、こうした立派な実践の背後には教員の方や職員の方のご苦労が相当にあるはずで、特に2016年の学部新設当初の準備は相当に大変だったと思われます。そうした中で鈴江さんや天野さんのような良好な地域のパートナーを確保できたことで、こうした学びを軌道に乗せることができたということでしょう。またコロナ禍の影響もかなりものがあったはずで、関係者や学生さんのパワーには敬服するよりありません。
 さて1日めのセッションはこれで終わり、夜はオンライン懇親会で肩の力の抜けたコミュニケーション…だったかな?まあ愉快なひと時を過ごしました。ということで2日めの感想は明日以降とさせていただきます。