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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

【露政府は直前まで「攻撃などあり得ない」と否定し、だまし討ちで全面侵攻を始めた。最後通告のない奇襲を外交でどう止められたか】(毎日新聞「長期化する露のウクライナ侵攻 現場の声に国際情勢学ぶ」)

2022年07月04日 | ロシアによるウクライナ侵略

プーチン大統領はウクライナ侵攻17日前にまだこんなことを言っていた。

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 戦争ほど現場を知らないで語るべきものはないですね。

 前にご紹介した、ウクライナの現地寿材をされてきた戦場ジャーナリストの志葉玲さんも激怒されていました。

「NATOの東方拡大」はプーチン大統領によるウクライナ侵略の「動機」ではあり得ても、ウクライナ戦争の「原因」とは言えない。ウクライナ戦争の原因はロシア軍によるウクライナ侵略以外にあり得ない。

 

 

 今回ご紹介するのは、毎日新聞のカイロ支局の真野記者の「記者の目」。

 今日の記事の末尾に載せた、同じ毎日の伊藤専門編集委員の記事に対して、このように敢然と抗議しています。

「私はモスクワ特派員になった2013年秋からウクライナ情勢を継続取材してきた。

 今回の侵攻は前段の経緯が複雑で、論点は多岐にわたる。

 ウクライナ支持が欧米や日本で広がる中、多数派の見方に疑義を呈する異論も少なくない。

 だが、その中には現地のリアリティーからずれた主張が散見されると感じる。

 本紙の伊藤智永・専門編集委員による4日付の論考「ゼレンスキー氏は英雄か」もその一つだ。

 この論考ではウクライナ指導部が戦争を止める外交努力を怠ったという趣旨の見方が示され、戦争被害に対するゼレンスキー大統領の政治責任を問う。

 確認しておきたいのは、露政府は直前まで「攻撃などあり得ない」と否定し、だまし討ちで全面侵攻を始めた事実だ。最後通告のない奇襲を外交でどう止められただろうか。」

 では全文お読みください。

 

 

 

記者の目

長期化する露のウクライナ侵攻 現場の声に国際情勢学ぶ=真野森作(カイロ支局)

キーウ近郊ブチャの自宅前で三男をロシア軍兵士に射殺されたマリヤ・コノワロワさん。埋葬を前に、息子の身分証明書を手にして涙ぐんだ=ブチャの墓地で5月2日、真野森作撮影

 遺体安置所の近くで泣き叫ぶ女性の姿が脳裏に焼き付いている。5月初旬、ウクライナの首都キーウ(キエフ)の近郊ブチャでのことだ。ロシア軍による2月の侵攻開始後、この町を占拠した露軍兵士は次々と民間人を殺害した。この明白で残酷な事実について露政府は全面否定するが、各国のメディアが多角的に報じている。私も現地取材で遺族の証言を得た。三男(当時41歳)を射殺されたマリヤ・コノワロワさん(74)は「彼はウクライナだけでなく世界中で何人殺しているのでしょう」と声を絞り出すように訴えた。「彼」とはプーチン露大統領のことだ。

奇襲で困難だった外交交渉での解決

 私はモスクワ特派員になった2013年秋からウクライナ情勢を継続取材してきた。今回の侵攻は前段の経緯が複雑で、論点は多岐にわたる。ウクライナ支持が欧米や日本で広がる中、多数派の見方に疑義を呈する異論も少なくない。だが、その中には現地のリアリティーからずれた主張が散見されると感じる。

 本紙の伊藤智永・専門編集委員による4日付の論考「ゼレンスキー氏は英雄か」もその一つだ。この論考ではウクライナ指導部が戦争を止める外交努力を怠ったという趣旨の見方が示され、戦争被害に対するゼレンスキー大統領の政治責任を問う。確認しておきたいのは、露政府は直前まで「攻撃などあり得ない」と否定し、だまし討ちで全面侵攻を始めた事実だ。最後通告のない奇襲を外交でどう止められただろうか。

 侵攻当初にプーチン政権が目標に掲げたのはウクライナの「非ナチ化」や「非軍事化」だった。民主的に選ばれたゼレンスキー政権を「ネオナチ政権」と決めつけて排除を目指し、今後は軍事的に抵抗できなくさせるという狙いが読み取れる。端的に言えば、ロシアの属国になれということだ。このような要求をのめる国はあるだろうか。

 さらに、プーチン政権が強硬に反対したウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟についても、全加盟国の承諾が必要なため実現性は乏しかった。

 プーチン政権には、自らに従わない人々が暮らす地域を力ずくで作りかえてきた暗い過去がある。代表例はロシア連邦下のチェチェン共和国であり、もう一つは14年に占領したウクライナ南部クリミア半島である。両地域では治安当局が厳しく目を光らせており、親プーチン派の住民以外は息を潜めて暮らすか故郷を離れるしかない。私はこうした現地を取材してきた。

 同様の蛮行は今、ウクライナ南部や東部の露軍占領地域で繰り返されつつある。ウクライナ人の多くが徹底抗戦を支持してきた背景には、降伏すれば国や地域社会を破壊されるという危機感がある。

 ゼレンスキー氏はこうした民意をくみ、国外に向けて武器供与や対露制裁強化を訴え続けている。軍事強国の侵攻で国家存亡の機にある中、諸外国に支援を求めるしかないからだ。地元ジャーナリストのセルゲイ・ガルマシュ氏は、弱腰を見せないゼレンスキー氏の立場について「戦時下の大統領らしく振る舞い続けなければ、国民の支持は維持できない」と指摘する。

 伊藤記者は論考で「米露代理戦争に命と国土を提供している」とゼレンスキー氏を批判する。これは国際政治を大国同士のゲームのように読み解き、中小国やその国民の主体的判断や行動を軽んじる見方ではないか。ぎりぎりの防衛戦を続けるウクライナ人からすれば現実からかけ離れた論難だ。

 侵攻開始から4カ月を経て、ウクライナは国土の約2割をロシア側に占領された。プーチン氏は、「東部ドンバス地方に暮らすロシア語話者らを守るため」という口実で戦争継続の意向を堅持し、その実、ウクライナの市民を踏みにじっている。一部の親露派住民の動向など、過去のウクライナ内政の失敗や民族主義が影響した面は確かにあるが、ロシア側はその失敗を侵略と占領に利用している。

 今後を考えると、プーチン氏は「ロシアの勝利」を宣言するため、最低でもドンバス全域の制圧を目指すとみられる。近い将来、ロシアが占領地域から平和裏に撤退する可能性は極めて低い。ウクライナ側はこの地域の奪還を簡単には諦められず、戦争は長期化が予想される。米国批判や内外政治に関する持論の主張にウクライナ情勢を都合良く切り張りする姿勢では、この戦争の本質やウクライナ人の思いは理解できないだろう。

 地域の歴史的経緯と現地事情を丁寧に学び、人々の多様な声に耳を傾けたい。そこからのみ、リアルな国際情勢が見えてくると思う。

 

 

日本で安穏として暮らしながら、ロシアのことはほとんど責めず、ウクライナと NATOのことばかり攻撃している橋下徹氏や鈴木宗男氏らの言は、まさに「現地のリアリティーからずれた主張」としかいいようがありません。

ロシア軍によるウクライナ侵略の責任は全面的にプーチン大統領とロシア政府にあります。

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時の在りか

ゼレンスキー氏は英雄か=伊藤智永

ゼレンスキー大統領の演説を聞く日本の国会議員たち=衆院第1議員会館で3月23日、竹内幹撮影

 沖縄県の玉城デニー知事が、米軍基地問題の有識者会議を始める際に「ゼレンスキーです。よろしく」とウクライナ大統領をまねてあいさつし非難された。軽率だったにせよ、深刻な失言とも思えない。むしろ、他ならぬ沖縄の知事がそう発言した深層心理に深読みを誘われる。

 その10日前、沖縄は日本復帰50年の記念日(5月15日)を迎えたが、国民は明らかに冷めていた。「冷淡というより歴史を知らないので沖縄が特別視されなくなっている」。那覇支局の同僚記者の分析だ。

 朝日新聞などの世論調査によると、70%に上る在日米軍基地の沖縄集中について、県民は「今のままでよい」が19%、「全面撤去・減らすのがよい」は76%なのに対し、国民全体の41%は「今のままで」と答え、「撤去・減らす」は52%だった。

 ロシアのウクライナ侵攻は、日本世論の中国脅威論を刺激した。基地を減らしたい沖縄の願望と逆に、米軍頼みの防衛力増強論が勢いづく。9月に改選を迎える玉城氏にとり、ウクライナ情勢は沖縄と地続きの身につまされる関心事に違いない。

 政府は「力による現状変更は認められない」とロシアを非難するが、新基地建設が進む名護市辺野古の土砂投入について、玉城氏が同じせりふで非難しても、政府は聞く耳を持たない。ふとテレビに目をやると、今日もゼレンスキー氏がさっそうと世界中に支援を訴えている……。

     *    *

 お笑い芸人から政治風刺テレビドラマの大ヒットを足場に3年前、大統領へ上り詰めたゼレンスキー氏。失政続きで、昨年秋の支持率は30%を割っていた。それが開戦後、持ち前の巧みなビデオ演説で人気急上昇。今や英雄視する評価もある。

 侵略が起きてしまった今となっては、徹底抗戦を指揮する戦時指導者としては理想的なのかもしれない。しかし、「これは世界を独裁陣営と自由陣営に二分するあなたの国自身の戦いだ」「もっと武器を。弾、弾、弾が足りない」とあおる演説には、共感より違和感を禁じ得ない。

 インターネット上ではウクライナ軍の戦争犯罪も確認されている。まして米国の異常な兵器の供給ぶりを見ると、ウクライナが米露代理戦争に命と国土を提供している実態は誰の目にも明らかではないか。

 開戦3カ月で民間人死者4000人超、国外避難民600万人、暴行され強制移住させられた人多数……。非難されるべきはロシアであるにせよ、現時点でこれだけの被害を出した政治責任は重大である。

 ウクライナが今日の侵略を招くまでには、20世紀末から10年ごとに繰り返された政変・革命による分断と非人道的暴力を放置してきた長い荒廃の道のりがあった。その責任も、政治指導者たちの過誤に帰する。

 政治家の責任は、国民をいかに戦争へ引き込まないか、にかかっている。本物の知略と勇気と説得術を持っているのなら、平時の内政と外交に使わなければ。戦争になってから発揮されても遅い。

 戦時指導者の人気はナショナリズムによるアドレナリンの作用であり、戦争が終われば消える。第二次大戦の勝利を指導したチャーチル元英首相も、湾岸戦争に勝って支持率89%を記録した父ブッシュ元大統領も、戦後の選挙であっけなく有権者に見放された。ゼレンスキー氏もプーチン露大統領も先の運命は大差ないかもしれない。政治指導者の人気は、かくも移ろいやすい。

     *    *

 ベストセラー「応仁の乱」の著者、呉座勇一氏の新著「戦国武将、虚像と実像」(角川新書)を読んだら、日本人が好む歴史上の英雄たちについても、ずいぶんいいかげんな説がまかり通っているらしい。

 例えば織田信長。軍事の天才にして、楽市楽座で経済規制を撤廃し、天皇や将軍ら既成の権威を否定した革命児……というのは歴史小説の作り話で、学問的史実は異なるという。秀吉、家康らの「常識」もかなり怪しく、江戸、明治、大正、昭和といった時代の価値観が投影されて虚像も変貌してきたというのだ。

 昔の英雄たちですら実像は定まりがたい。実績と人気は別ものという以外に、人気は物語や逸話の面白さに大きく左右されるからだ。

 岸田文雄内閣の支持率上昇は、まだ何の実績もないので、これも一種の人気だろうか。不支持率が減っているから、「積極的に嫌ではない」消極的承認というべきか。だとすれば、本来の意味の「支持」「評価」とは反対に、「何でもいいから問題を起こさず適当にやっておいて」といった投げやりな気分、無責任な無関心の表れかもしれない。

 今のところ民心は、岸田氏の政治姿勢と奇妙に共鳴している。岸田氏が池田勇人元首相の「所得倍増計画」や大平正芳元首相の「田園都市国家構想」といった派閥の大先輩たちが残した昔の看板を持ち出すのは、独自の物語を生み出す気概がハナから欠けているためだろう。だが政界も世論も、底流にはきっと飽きたらなさがくすぶっている。だからゼレンスキー氏に英雄の幻像を見たがるのだ。(専門編集委員)(第1土曜日掲載)

 

 

 
2014年に訪れたウクライナ南東部ノボアゾフスクの国境検問所には、ロシア軍車両の侵入を阻止するため護岸用ブロックが置かれていた。だがこの町は結局、ロシア側に制圧された=2014年3月21日、篠田航一撮影

 島国の日本で生まれ育つと、「国境」というものが今ひとつ体感として分からない。頭では理解しても、陸続きで「すぐそこに外国がある」という感覚がピンとこないのだ。

 だが海外取材では国境を訪れる機会が頻繁にある。そこが国家対立の前線だったり、移民・難民の出入り口だったりするケースが多いからだ。

 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、世界の注目を集めた国の一つがフィンランドだ。隣国ロシアと約1300キロの長い国境を接しており、この距離はほぼ札幌―福岡間に相当する。

 フィンランドはロシアとの決定的対立を避けるため、長年、西欧とロシアとの間で中立政策を取ってきたが、ウクライナ侵攻で状況は一変した。安全保障上の危機感から、5月18日にはスウェーデンと共に欧米の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。

 5月下旬にそのフィンランドを訪れた。この国は第二次大戦中に当時のソ連の侵攻を受け、国土の1割を奪われた苦い経験がある。国境の町ラッペンランタに住む農機具販売業のアンティ・コッカラさん(64)は「戦時中、私の父は故郷の港町コイビストから逃げてきました」と話した。この町は当時はフィンランド領だったが、今はロシア領プリモルスクになっている。

 コッカラさんは父の故郷であるこの町を1992年に訪れたが、「シラカバの森に囲まれ、美しい教会があり、港もにぎやか。いい町でした」と振り返る。かつて自国領だった町が外国領になり、そこを車や電車で訪れる。

 陸続きの隣国ならではだが、一方でコッカラさんはただ感傷に浸っているわけではない。「隣国というのはいつか必ず攻めてくる。そう思って備えるべきです」とも話していた。コッカラさんの住む集合住宅には、敵の攻撃を想定した地下シェルターが完備されている。

「攻めてくる」という恐怖

 隣国は必ず攻めてくる。この言葉、どこかで聞いたことがあると感じたが、すぐに思い出した。2014年3月だ。ウクライナ南東部に位置するロシアとの国境の町ノボアゾフスクで、まったく同じ言葉を住民から聞いたのだ。それは忘れられない光景だった。

<picture><source srcset="https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/06/28/20220628pol00m010014000p/8.webp?1" type="image/webp" />ウクライナ南東部ノボアゾフスクの検問所で、ロシア側に向かう通行車両をチェックする国境警備隊=2014年3月21日、篠田航一撮影</picture>

ウクライナ南東部ノボアゾフスクの検問所で、ロシア側に向かう通行車両をチェックする国境警備隊=2014年3月21日、篠田航一撮影

 国境検問所に近付くにつれ、路上に奇妙な形のものが見えてきて驚いたのを覚えている。それは幅3メートルほどの巨大な護岸用コンクリートブロックだった。波の影響で海岸線の浸食を防ぐため、よく海岸沿いに並べられているもので、日本でも「消波ブロック」などと呼ばれる。そのブロックがなぜか陸上にズラリと置かれていた。ロシア軍車両の侵入を阻止するためだった。ブロックは一定の間隔で配置され、普通車程度ならジグザグに走れば通れるようになっている。だが巨大な戦車はまず通れない幅だった。

 当時はロシアによるウクライナ領クリミアの一方的な編入があった直後で、国境はどこもピリピリしていた。このブロックを撮影中、私も銃を構えた国境警備隊に尋問され、撮影した写真をほとんど消去させられた。だが検問所を去る時、数枚の写真を再びそっと撮影した。そして取材に同行してくれたドライバーに急いで車を発進するように頼み、逃げるように国境を後にした。やはり写真は撮りたかった。数十行の記事より、この時は1枚の写真の方が国境の現実を物語ると思ったからだ。

ノボアゾフスクには親ロシア派住民もウクライナ政府側住民もいたが、当時の住民も「ロシアはいつか攻めてくる。そういう国だ」と話していた。だからこそのブロックだった。

 今年5月に訪れたフィンランド南東部のロシア国境は、それに比べるとのんびりしていた。ものものしい国境警備隊が武装して常に巡回しているわけでもない。実際、フィンランドとスウェーデンには「ロシアによる差し迫った脅威はない」(NATOのジョアナ事務次長)との見方が大勢だ。とはいえ、国境に住む人々の言葉は同じである。「いつか攻めてくる」との恐怖感はほぼ一致しているのだ。

<picture><source srcset="https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/06/28/20220628pol00m010015000p/8.webp?1" type="image/webp" />ウクライナ南東部ノボアゾフスクの国境案内板=2014年3月21日、篠田航一撮影</picture>

ウクライナ南東部ノボアゾフスクの国境案内板=2014年3月21日、篠田航一撮影

変わらぬ行動原理

 歴史は繰り返す。第二次大戦中にソ連がフィンランドに侵攻した際、ソ連は開戦の口実として「自軍が攻撃されたので、仕方なく反撃した」と主張した。これはまさに今回のウクライナ侵攻前後に、ロシアがウクライナ東部の親露派地域で「ウクライナ側に攻撃された」と訴えたのと一緒だ。

 冷戦期にソ連の「封じ込め政策」を説いた米外交官で、ソ連大使も務めたジョージ・ケナンは47年の論文で、クレムリン外交の秘密性、率直さの欠如などは「将来にわたって残る」と分析した。作家・司馬遼太郎は、ロシアという国が「病的な外国への猜疑心(さいぎしん)、そして潜在的な征服欲、また火器への異常信仰」を持っていると説いた(「ロシアについて」文春文庫)。いずれも数十年前の言葉だが、古びた印象を受けないのは、それだけロシアという国の行動原理が今も昔も変わらないからだろう。ウクライナもフィンランドもきっとそう思って長年ロシアと向き合ってきたはずだ。

 一方でケナンは、ロシアの威信を傷つけない形で、彼らが応諾できる道を開いておくことも重要と述べている。マクロン仏大統領も最近、似たような見解を述べ、ウクライナ側が不快感を示したことがあった。

 島国の日本もロシアとの間に北方領土問題を抱える。ロシアとどう向き合うか。このテーマはウクライナ侵攻以前から、常に古くて新しい問題であり続けている。国境の住民にとっては自らの生命・財産に直結する話でもある。

 「隣国は必ず攻めてくる」。8年前、そう話していたノボアゾフスク住民の予言は当たってしまった。巨大なブロックを置いてまで国境の守りを強化していたこの町は今、ロシア側の支配下にある。<picture><source srcset="https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/06/28/20220628pol00m010016000p/8.webp?1" type="image/webp" />フィンランド南東部イマトラにあるロシアとの国境検問所=2022年5月26日、篠田航一撮影</picture>

フィンランド南東部イマトラにあるロシアとの国境検問所=2022年5月26日、篠田航一撮影

 

 

ロシアは侵攻するのか?しないのか?プーチン大統領の思惑…モスクワから見たウクライナ情勢

国際・海外 

緊迫するウクライナ情勢。ロシア・プーチン大統領の思惑はどこにあるのか?

FNN記者のイチオシのネタを集めた「ネタプレ」。今回はFNNモスクワ支局・関根弘貴支局長が焦点の「ロシアはウクライナへ侵攻する?しない?」について伝える。

ロシアは隣国ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)への加盟をめぐり、アメリカなど西側諸国への非難を続け、軍事的緊張が高まっている。ロシアとアメリカ双方が出す情報も真っ向から対立する中、世界がプーチン大統領の動向に注目している。

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
連日、いつロシアが軍事侵攻してもおかしくないと言われるウクライナ情勢ですが、いま何がおきているのかというとコチラの地図をご覧下さい。大量のロシア軍がウクライナとの国境に集結し、3方向からウクライナを取り囲んでいる状態。包囲するロシア軍の数は約15万人とされ、これはロシア軍の約半分にあたります

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
特にロシアが同盟国のベラルーシとウクライナ周辺で行っている合同軍事演習は異例でした。いつもはウクライナ近くにいる部隊だけで演習を行っていたのが、今回は約9000km以上離れた極東から最新兵器を運び入れるなどしたのです

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
アメリカのバイデン大統領は2月17日、「ロシアによるウクライナ侵攻の脅威は非常に高い。あらゆる兆候が侵攻準備を示している」と発言し、数日以内に侵攻の可能性があると警戒感を示しました。しかしロシア側は「自分たちの領土で演習することがなぜいけないのか?我々はウクライナを脅かしたことは一度もない」と言い張っています

ロシア国民はウクライナ情勢に興味がない

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
また、ロシア国営テレビでも専門家が「緊張の高まりはロシアのせいではない」と猛烈に反論しています

ロシア国営テレビ「ロシア24」・専門家A
我々が見ているのは(西側諸国の)下品なプロパガンダでしかない

ロシア国営テレビ「ロシア24」・専門家B
プーチン大統領が侵攻を決断していないにもかかわらず、ウクライナはヨーロッパの(国外退避などの)“ヒステリー”のせいで(経済的に)倒れそうになっている

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
意外なことに世界的なニュースになっているウクライナ情勢についてロシア国民はあまり興味がないんです。私の友人を含めて最近までこの事態を全く知らなかった人さえいます。元々ロシア人は楽観的で「アメリカなどが勝手に騒いでいるだけだ」という政府の説明を信じていて戦争などになるのはありえないと考える人が多いんです

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
それより話題になっているのは北京オリンピック女子フィギュアスケート、ワリエワ選手のドーピング問題です。ロシアの各地の街中に「私たちはあなたと共に」という伝統的な応援メッセージが掲げられています。ロシア国営テレビでもフリー演技の行われた17日は、ウクライナ情勢より女子フィギュアを手厚く扱っていました

加藤綾子キャスター
そうだったんですね。もっと緊迫しているのかなと思っていたんですが。そもそもプーチン大統領の狙いは何なんでしょうか?

「強さ」をアピールし続けるプーチン大統領

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
はい。それをひもとくための映像がコチラ。筋肉豊かな上半身を露わにしたプーチン大統領の映像。上半身裸でジムでトレーニングしたり、森を散歩したり、馬に乗ったり、魚釣りする様子が映っています。また「私は何でもできる」とばかり、アイスホッケーをしたり、柔道をしたり、射撃をしたりと、強さを前面に出すイメージ戦略を取ることで人気を集めました

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
実はプーチン大統領の支持率はピーク時より低下していて、国内での求心力を維持するために、改めて強さをアピールする必要に迫られています。「強い大統領」「強いロシア」を維持するためウクライナ情勢では負けられないんです

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
東西冷戦の終了後、元々ロシア寄りだった国々が続々とアメリカが中心のNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、ロシアは周りを“アメリカ側”の国に囲まれてしまいました。そしてウクライナがNATOに入ってしまうと、ロシアがNATO加盟国のウクライナと直に国境を接してしまうことになります

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
さらにウクライナにロシアに向けたアメリカのミサイルが配備されれば、発射後わずか5分で首都モスクワに達するという脅威にさらされます。このためロシアにとって「ウクライナのNATO入りは絶対に許せない」一線で、プーチン大統領もこれを断固阻止する姿勢を示す必要があるんです

ウクライナ侵攻…本気なのか?見せかけなのか?

加藤綾子キャスター
阻止する姿勢は見えますけれど、実際にウクライナに軍事侵攻することまでは考えていないということなんでしょうか?

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
はい。それが非常に微妙なところなんです。プーチン大統領は最近こんな発言を繰り返しています

プーチン大統領(7日)
(戦争に)勝者はいない。そんなことはしたくない

プーチン大統領(15日)
戦争はしたくない

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
このようにプーチン大統領は「戦争はしたくない」と対話路線を打ち出しているんですが、信頼できるのかどうかは何とも言えません。実は2014年にはウクライナの一部だったクリミア半島強引に併合してしまった過去もあります

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
ロシアは16日から、ウクライナ国境で軍事演習していた部隊の一部を撤収させ始める動画を公開しました。ただ撤収させた部隊の規模などは明らかにしていません。緊張緩和に向けて対応していることをアピールし、アメリカの出方をうかがっているだけとの見方もあります。これに対し、アメリカの政府高官は「撤退は確認できていない。ウソだ」と主張し、むしろ周辺のロシア軍は増強されていると警戒しています

アメリカに侵攻を阻止する手段はあるのか?

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
アメリカが軍事侵攻阻止のカードとしているのが経済制裁です。制裁としてドル取引を停止されると、ロシアで展開しているアメリカ企業などの営業がストップする可能性があります。特にマクドナルドなどのファストフード店はロシアでも人気があり、閉まれば国民から反感をかってしまいます

FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長
北京オリンピックが閉幕する来週以降、米ロが折り合いをつけられるのか?はたまた軍事的緊張が続いてしまうのか?プーチン・バイデン両大統領の直接交渉にかかっています

イット!スタジオでは…

イット!では明治大学教授の齋藤孝さんに話を聞いた。

加藤綾子キャスター
ロシア国内が落ち着いているというのも驚きだったんですが、今後も注意深く見ていかないといけないですね?

明治大学教授・齋藤孝さん
額面通りに言葉って受け取れないんですよね。両首脳の言う言葉というのは全部、交渉の材料だと思うんです。相手の利益をどれだけ自分の方に持ってこれるかとか、選択肢を用意させて譲歩を狙っているんですね。ウクライナをNATOに入れさせないという言質をアメリカから引き出したいんだと思いますけれども、弾を実際に撃ち合う前に言葉の応酬があるんですよね。一つ一つの発言によって相手をゆさぶっているというという状況だと思います

(イット! 2月18日放送より)

(FNNプライムオンライン2月18日掲載。元記事はこちら

 

 

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4 コメント

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判断が難しい (kei)
2022-07-06 10:52:55
rayさん、お久しぶりです。
こうした情報はどう解釈したら良いのでしょう?

https://critic20.exblog.jp/32611558/

戦争にNoを突きつけるのは当然として、一方の言い分だけを信じるのは危険ではないでしょうか?

案の定日本政府は「何もしていないのに侵攻された無力で悲劇のウクライナ」という演出で、憲法改正や防衛費の増強への国民の抵抗力を失わせました。
少なくともそのイメージは嘘ですよね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ドンバス戦争
こうした2014年からの内戦の経緯を見ても、私には双方に戦争責任が有るように見えます。同じウクライナ人でも東部と西部では意見が全く違うでしょう。その辺の取材を志葉さんにもお願いしたいところです。

世界を見渡しても、ロシアへの制裁に協力している国は3分の1しか有りません。慎重に情報を見極めることが必要だと思うのです。
Unknown (raymiyatake)
2022-07-06 12:30:59
keiさん、お久しぶりです!

イラク戦争を起こす時のアメリカの大義名分は、独裁国家が大量破壊兵器を持っている、だったですよね

イラクが大量破壊兵器を保有しているというのはでっち上げの口実だったわけですが、フセインイラク大統領が独裁者で、国民の人権を侵害し少数民族を虐殺していたのは確かです

その専制的支配の程度は、ウクライナの歴代政権やゼレンスキー大統領の比ではないでしょう

しかし、イラクをアメリカが攻撃したのは国際法違反で許されないことは間違いありません

また、北朝鮮は当時のイラク以上の専制国家だと思いますが、やはり北朝鮮への攻撃は許されません

ロシアがウクライナを侵略して戦争していることを正当化できる要素は何一つないと思います
Unknown (まさか、と思った人)
2022-07-06 15:43:47
建前と本音とはよく言いますが、6月9日、ピョートル大帝の生誕三百五十年を記念したイベントでプーチンが語ったとされる、


【ロシアのプーチン大統領は九日、帝政ロシアのピョートル大帝が十八世紀にスウェーデンとの北方戦争に勝利し、版図を広げた歴史を引き合いに「領土を奪還し強固にすることは、われわれの責務だ」と述べた。】

【プーチン氏は、ピョートル大帝がバルト海に通じる沼地を埋め立て築いたサンクトペテルブルクについて「大昔からスラブ民族が住んでいた」と主張。現代社会にも言及し「主権を持たない国は植民地」だと力説した。】


ウクライナ侵略の本当の理由は、アメリカNATOの東方拡大でもなく、ネオナチ排除でもなく、親露派保護でもなく、
実は、これこそが、今回、ウクライナ侵略を実行したプーチンの本音なのではないのか、と思えてならないでのす。


たとえばですが、実子誘拐という話の中で、揉め事がなかなか収まらず、いつしか、ポロッと本音が口をつくことがある場面に出くわしませんかね。ツイッターなんかでの言い争いなどを見ていて、そんなことを感じたことがあるのです。あくまで、合法的、常識的に振る舞い、子供の親権問題を持ち出してはいるが、実は、

「私に恥をかかせた恨みを晴らしてやる。俺の言うことを聞かないとどんな目に合うか、思い知らせてやる」

他にもありましょうなどなどの隠された本音が、いつしか、ポロッと口をついたり、言葉や文などの表現に出てしまうほど、怒りが収まらない側の失言、隠しきれなかった本音のことです。
弁護士さんなどは職業柄、こういうことには殊の外、敏感ではないかな、もあくまで私見ですが、それでも、アメリカNATO東方拡大説などへ肩入れしている人が散見するなあ、というか、一旦言い出してしまったからには止まらない、止められない、頑固一徹なのかなあ、もまた余談の感想です。


とにかく、6月9日の会合でプーチンが発したこの言葉を知った時、国土防衛は確かにその通りなのだろうが、他の何よりも、プーチンの歴史観に基づいた、この思いこそがまさにウクライナ侵略の本音では、と思えてならないんですね。
また、その夢を実現させるためには、自分を利するもの、利用できるものは何でも利用するもまた、世の常ですからね。

いつでもどこでも、行動理由が一貫していれば、こういう疑念を感じることも少ないのですが、二転三転、次から次へと新たな理由を出してくる人ほど信用してはならない、が私の個人的な人生訓でもありましてねえ・・・。


他社の記事でも同様に伝えている報道はいくらでもありましたが、イベントで語られた部分は、以下の記事からの引用です。

★ 中日新聞 プーチン氏、ピョートル大帝に自ら重ね「領土奪還は責務」
2022年6月12日 05時05分 (6月12日 05時05分更新)
https://www.chunichi.co.jp/article/487968
rayさんへ (kei)
2022-07-13 10:45:59
ありがとうございます。
もちろん侵略であれば正当化は出来ないのですが、状況を見る限り、ウクライナ政府側の一方的な声明でそう判断出来るのかどうかが疑問なので、私は志葉さんや田中さんのようにウクライナ政府主催の取材ツアーだけで判断するのではなく、親ロシア派や東部住民の取材もしなければ、誤った判断に陥ると危惧するのです。

日本ではIWJがかなりそこを重視して多角的な情報を発信していると思いますが、志葉さんや田中龍作さんが岩上さんのインタビューを受けて、その辺を詰めた議論をしてくださらないかと希望しています。

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