『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』あとがき

出版社の許可を得て、本日発売の『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』の「あとがき」を掲載します。書店でこの2人を見かけたら、その成長を活躍をぜひ読んでみてください。

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最初に、本書のタイトルについて。

おわかりのようにこれは、経済評論家・山崎元さんのベストセラー『図解・最新 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』(文響社)を参考にしたものです。――いろいろ考えたものの、これを超えるパターンを思いつけませんでした。

このタイトルを快諾してくださった山崎元さんと、編集者で共著者でもある大橋弘祐さんにまずは感謝します(書店さんは、いっしょに並べてもらえるとうれしいです)。

次に、マンガ家の北野希織さんについて。

講談社の佐渡屋秀樹さんからこの企画を聞いたとき、私がこれまで資産運用について書いたものをほんとうにマンガにできるのか半信半疑だったのですが、北野さんは自ら株式投資を実践していて、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)はもちろん、最終的には使わなかったものの、第一稿にはファイナンス理論でノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープの「CAPM(キャップエム)=資本資産評価モデル」まで出てきてほんとうにびっくりしました。

トーリーに若干のアドバイスはしたものの、本書はすべて北野さんの素晴らしい仕事です。これからもどんどん面白い「ファイナンスマンガ」を描いてください(マンガ界はあなどれません)。

本文に入れられなかったものの、最後に大事なことをひとつだけ。それは、「お金の限界効用は逓減(ていげん)する」です。

暑い夏、喉がからからに渇いたときに飲む生ビールの最初のひと口はものすごく美味しいでしょうが、2口目、3口目になるにつれて美味しさは減っていって、大ジョッキをお代わりする頃には惰性で飲むようになります。このときのビールの美味しさが「効用(幸福度)」で、美味しさがだんだん減っていくのが「逓減」です。

ヒトの脳はいろいろな刺激に慣れるようにつくられていて、ビールと同じくお金も例外ではありません。10万円の給料が11万円に増えればものすごくうれしいでしょうが、月収100万円のひとが101万円になったとしてもなんとも思わないでしょう(というか、気づくこともないかもしれません)。

このように、お金の限界効用も逓減していきます。その水準はひとそれぞれでしょうが、日本のある大学の調査では、平均して年収800万円(夫婦と子どものいる家庭なら年収1500万円)を超えると効用(幸福度)は変わらなくなるとされています。

それは、これだけの年収があれば世間一般でいわれる「幸福」(ブランドものを買ったり、海外旅行に行ったり、あるいは子どもを私立に通わせたり、週末に夫婦で食事に行ったり)を実現できるからでしょう。さらに収入が増えれば海外旅行のホテルを3つ星から5つ星にしたり、食事を近所のお洒落なビストロからミシュランの星付きレストランにすることもできるでしょうが、だからといって幸福度はそれほど変わらないのです。

これは、「お金は大事だけれど、必要以上のお金はたいして意味がない」ということでもあります。

富を獲得することがゴールではありません。「経済的独立」を実現して自由な生き方を手に入れ、その「土台」のうえにどのような人生をつくっていくかは、あなた次第なのです。

2020年11月 橘 玲