大前研一「ニュースの視点」Blog

KON851「行政デジタル化/日本学術会議/博士課程~日本における理にかなった博士課程の在り方とは?」

2020年10月19日 博士課程 日本学術会議 行政デジタル化

本文の内容
  • 行政デジタル化 全行政手続きの見直しを指示
  • 日本学術会議 「前例踏襲でいいのか考えてきた」
  • 博士課程 修士課程から進学する学生数がピーク時の半分に

表面的な行政デジタル化ではなく、抜本的な国民データベースの構築をすべき


政府は7日、菅政権で初となる規制改革推進会議を開きました。

その中で菅首相は、「近日中に全省庁において全行政手続きの見直し方針をまとめてほしい」と述べ、署名や押印を抜本的に見直すように指示しました。

また行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破るため、各省庁が自ら規制改革を進めることが必要と呼びかけました。

行政手続きのデジタル化の流れは、非常に大きくなっています。

「デジタル・ガバメント支援室」を新設し、官公庁及び地方自治体向けに行政手続きのデジタル化推進を支援すると発表した弁護士ドットコムは、時価総額も順調に上昇しています。

見事に流れに乗った施策ですが、創業者の元榮氏は9月に代表取締役会長を退任しているものの、現参議院議員なのであまりに派手に動きすぎると何か言われてしまうかもしれません。

河野行革相も、押印やハンコの不要について合意しており、複雑な行政手続きの簡素化への動きはもはや止まらないと思います。

このような動きそのものは悪くありませんが、私に言わせれば表面的な修正に過ぎず、土台となる根本的な部分に問題があると思います。

それは、大前提になる国民データベースが構築されていないということです。

行政手続きを全面的にデジタル化していくためには、基本的にゼロベースで国民一人ひとりをクラウドコンピューティングで管理する必要があります。

すなわち、医療情報から運転情報まであらゆるデータを把握し、政府はそれに基づいて役所のサービスを定義します。

現状、なんとか小気味よく動き出してはいますが、このような根本的な土台から再構築することを提案する人がいなければ、本質的な問題解決には繋がらないでしょう。

そしてゼロベースで国民データベースを作る時に、戸籍に記載されている出生や親子関係、婚姻などの記録をいかに取り扱うかが問題になります。

「日本は戸籍制度を継続するのかどうか」という点まで踏み込んで、ゼロから考え直す必要があると私は思います。




日本学術会議問題で露呈した菅首相の「ウソ」は深刻


菅首相は5日、日本学術会議が推薦した新会員候補の6名を任命しなかったことについて、「推薦された方をそのまま任命してきた前例を、そのまま踏襲していいのか考えてきた」と述べ、今回の判断は妥当との認識をあらためて示しました。

また、任命される会員は公務員の立場になるとし、特別国家公務員の任命責任が首相にある点を踏まえた判断だと説明しています。

菅首相は、自分が任命を決裁した時点で「6人はすでに除外されていて99人だった」とし、学術会議の推薦者名簿は「見ていない」と説明しているそうですが、この言い分は全く成り立たないと私は思います。

もしこれが事実であれば、「学術会議が推薦した105人から99人に絞ったのは誰なのか?」という問題が出てきます。

論理的に考えれば、菅首相自身が認めなかったという以外に、105人から99人に減少する理由がありません。

おそらく、「国会で自民党に対して反対の立場をとった人を排除しろ」など、菅首相から何かしらの命令が出ていたと考えざるを得ません。

今になって「前例踏襲でいいのか考えていた」とか、「学術会議そのものを見直す必要がある」などと話していますが、議論のすり替えにすぎないのは明白です。

たしかに学術会議には、体制のこと、予算のこと、など様々な問題があります。

しかし、この問題の争点は学術会議が抱えている問題を問うものではありません。

「105人から99人に減少した理由」を明確にしない限り、正式な回答にはならないでしょう。

何より私は、菅首相が「まるで息を吸うように自然に」嘘をついたことが残念です。

奇しくも安倍前首相を彷彿とさせます。

国会で追及されれば、苦しい状況に追い込まれると思います。

安倍前首相の「モリカケ問題」と同様、あるいはそれ以上に深刻な事態を迎える可能性もあるでしょう。

実際、排除された6人は平和安全法制、特定秘密保護法、組織的犯罪共謀罪などについて政府と異なる見解を持っている人だったそうです。

当然のことながら国会が開けば、この点は間違いなく突っ込まれる部分でしょう。

せっかく新内閣が発足し、高い人気を誇っていたのに、こんなくだらない嘘をつくことでつまずいてしまうとは、非常に残念です。




日本の場合、社会人になってから博士課程で学ぶほうが良い


NHKニュースウェブは4日、「大学院の博士課程 修士課程から進学する学生数がピーク時の半分に」と題する記事を掲載しました。

日本の博士課程の学生数が減り続けていることを受けたもので、ノーベル賞受賞者から対策を求める声が挙がっていると紹介。

博士号を取得しても、企業や社会の評価が低く、将来のキャリアが不透明なことが要因で、学生が研究を続けられる環境の整備や企業の待遇改善などに取り組む必要があるとしています。

私はこの方針に反対です。

というのは、今の日本の大学に残って、そのまま教授のところで丁稚奉公のようなタダ働きをしても、まともな研究はできないからです。

むしろ近年、博士課程に進む社会人の割合が増えていますが、こちらのほうが心置きなく研究に励むことができると思います。

企業に入社した後、企業の研究部門などに所属しながら、企業の支援を受けて博士課程で勉強する、というものです。

このように企業から派遣されながら徹底的に高度な研究を博士課程で行うというのは、今の日本では非常に理にかなっているやり方だと思います。

私は東工大の博士課程にも進むことができる状況でしたが、MITを選んで正解だったと思っています。

今は私が在籍した当時に比べると、外国人留学生に対する条件は厳しいと思いますが、米国と日本では研究環境も金銭的な事情も全く違いました。

私がMITにいたとき、何より教授に潤沢にお金があったおかげで、アシスタントをやっているだけでも生活の不安が一切ありませんでした。

これは非常に重要なポイントだと思います。

またノーベル賞を受賞するような一部の方は別格として、今の日本の大学で、学生に企業でも通じるような研究について「指導できる人がどのくらいいるのか?」という点も私には疑問が残ります。

こういった環境の中にお金を投じても、砂地に水を撒くがごとく無駄になってしまう可能性が高いでしょう。




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※この記事は10月11日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は行政デジタル化のニュースを大前が解説しました。

大前は「必要なのは見かけ上の煩雑な手続きの簡素化ではなく、国民データベースの構築といった根本的な改革である」と述べています。

表面的な課題に飛びついてしまうと、根本的な解決の機会を失ってしまいます。

問題を解決するときには、目の前の事象にとらわれず、物事の全体像を把握した上で、どうあるべきかを考えることが大切です。


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