大前研一「ニュースの視点」Blog

KON833「米国暴行事件/米フェイスブック/米スナップ/2020年米大統領選~支持率を大きく落としたトランプ大統領」

2020年6月15日 2020年米大統領選 米スナップ 米フェイスブック 米国暴行事件

本文の内容
  • 米国暴行事件 15州に州兵計5000人動員
  • 米フェイスブック 一部の幹部、社員がザッカーバーグCEOを非難
  • 米スナップ 米トランプ大統領の投稿を停止
  • 2020年米大統領選 世論調査でバイデン氏優勢

暴行事件への対応のまずさで、支持率を大きく落としたトランプ大統領


白人警官の暴行で黒人男性が死亡したことへの抗議デモが全米に広がっていることを受けて、米国防総省州兵総局は先月31日、15の州と首都ワシントンにあるコロンビア特別区が州兵を動員したと発表しました。

州兵はその他、ミネソタ、コロラド、ペンシルベニアなどにも動員されており、トランプ大統領は州兵の活動を称賛するとともにデモとの対決姿勢をあらためて鮮明にしました。

トランプ大統領は、州兵の動員をためらっていた州知事や市長に対して小馬鹿にした態度を示していました。

しかし、私に言わせれば完全にトランプ大統領の判断の方が間違いです。

さすがに、州兵どころか連邦軍の動員をほのめかしたときには、エスパー国防長官も止めに入りました。

これは、当然のことでしょう。

原則として、合衆国憲法では各州内の秩序を維持する権限は州知事にあり、「民警団法」で定められており、連邦軍が国内法の執行に関与するのを禁じているからです。

トランプ大統領のみならず、その報道官までが「国防長官の進退は大統領が握っている」「連邦軍の動員についても大統領権限であり、国防長官権限ではない」などと発言する始末で、全くお話になりません。

ついには、ミリー統合参謀本部議長が「米国は戦場ではない」「連邦軍は戦場にしか投入できないと決まっており、市民に対して連邦軍を動員することなど許されない」と発言するに至りました。

結局のところ、トランプ大統領は自らの権限や強さを誇示することが目的だったのでしょうが、今回は「トランプ大統領の狙い」から見ても、失敗だったと言わざるを得ません。

自らの無知をさらけ出した結果、米国民の55%が対応を支持しないと表明しています。

そして、この1~2週間でトランプ大統領は支持率を大きく落とすことになってしまいました。

過去の大統領も、国内の暴動を経験していますが、今回のトランプ大統領ほど国民の心が離れてしまったことはありません。

歴史的に見ても、非常にまずい対応だったと言えるでしょう。

米国には様々な人種が暮らしていますが、年々、ヒスパニック、黒人、アジア系の人口が増えています。

その中でも、新型コロナウイルスの10万人あたりの死者数を見ると、ラティーノやアジア系に比べ、黒人の割合が2倍ほどになっています。

これは、主に糖尿病と肥満に原因があると言われていますが、黒人の立場からすれば、自分たちばかりが犠牲になり、仕事もレイオフされ、警察に暴行をされるなど不当な扱いを受けていると感じてもしかたないでしょう。

そうした社会の不安、不満が爆発したのが、今回の事件でした。

トランプ大統領は完全にその対応を間違ってしまい、人心を掌握することが全くできなかったと言えます。




ザッカーバーグ氏も人心掌握に失敗


そして、トランプ大統領と同様、人心掌握に失敗したのがフェイスブックのザッカーバーグCEOです。

米フェイスブックの幹部や社員が、ザッカーバーグCEOを非難したり、在宅勤務の仕事を拒否するストライキを起こしました。

これは、トランプ大統領が「略奪が始まれば銃撃も始まる」とフェイスブックに投稿したことに対し、ザッカーバーグ氏が「表現の自由を尊重し書き込みをそのままにする」と説明したことを受けたもので、発言の規制に対しては賛否両論あり、経営陣は難しい対応を迫られています。

ツイッターのジャック・ドーシー氏が、トランプ大統領の発言についてファクトチェックを行うと発表し、トランプ大統領の怒りを買いました。

このときから、ザッカーバーグ氏は「自分たちプラットフォームは投稿内容(発言内容)を判定する役割ではない」という見解を示していました。

私としては、この考え方も1つの見解だと思いますが、今回はあまりにも反対意見が米国の平均的な社会常識として強くなり、世論に押し切られる形になりました。

ザッカーバーグ氏にとって大変なのは、これを機に「自分たちの役割はなにか?」を模索し始めてしまうことです。

そうなると、迷える羊のようになってしまうかもしれません。

一方、スナップチャットを運営する米スナップは、トランプ大統領が投稿したコンテンツを、動画によるプロモーション機能「ディスカバー」に掲載しない方針を明らかにしました。

人種間の暴力や不正を扇動する恐れがあると判断したもので、SNSによるトランプ氏の投稿の制限はツイッターに次いで2社目となります。

私は、投稿制限するか否かのどちらか一方が正しいとは考えていません。

どちらの見解もあって良いと思います。

それよりも、根本的な問題だと感じるのは、トランプ氏がこの期に及んで米国の大統領としてのあるべき分別を示さずに、異常な行動を繰り返していることです。

私は就任当時から、トランプ氏の異常さや問題点を指摘してきましたが、今回の事件では、それが全米国民に対しても如実に明らかになったということだと思います。




11月の大統領選では惨敗の可能性も高いトランプ氏


そうしたトランプ大統領の異常行動の影響もあり、11月3日の大統領選挙に向けて、あらゆる媒体の調査でバイデン氏がトランプ氏よりも優勢な状況を示すようになりました。

トランプ氏の支持率が43%、バイデン氏の支持率が53%となり、これまでにないほど両者の差が大きく開いています。

さらに、共和党の過去の大統領や有力者たちが、トランプ大統領の再選を支持しないと示唆しており、このままではトランプ氏は大統領選で惨敗するのではないかと騒がれ始めています。

トランプ氏が敗北し、バイデン氏が米国大統領になった場合、おそらく我々が知っているかつての米国に近い状況に戻っていくことになる、と私は見ています。

副大統領候補の影響もあるでしょうが、いずれにせよ、もう少し常識的で国際的な協調を重んじ、自由主義陣営のチャンピオンとしてリーダーシップを発揮できる立場を保つ国の姿を取り戻すはずです。

少なくとも、トランプ大統領のように、不必要に欧州と対立するといったことはなくなるでしょう。




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※この記事は6月7日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はトランプ大統領のニュースを大前が解説しました。

トランプ大統領の投稿に対し、SNSの運営会社はそれぞれの対応を発表しています。

自社の考えが、必ずしも世論と一致するとは限りません。

常に世論にあわせるのではなく、「社会における自社の役割はなにか」を考え、自社の思いを世の中にきちんと届けていくことが大切です。


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