No. 2118 高まる米国とEUの保護主義の中での中国の経済的成功

China’s economic success in face of growing US, EU protectionism

by Jeffrey D Sachs

欧米の報道は中国経済に関する不吉な話で溢れている。中国の急成長は終わった、中国のデータは操作されている、中国の金融危機が迫っている、中国は過去四半世紀の間の日本と同じような停滞に見舞われるだろう、と我々は定期的に言われている。これは米国のプロパガンダであり、現実ではない。そう、確かに中国経済は逆風に直面している。それは主に米国が作ったものだ。それでも中国は、米国が作り出した逆風を克服し、急速な経済発展の道を歩み続けることができると私は信じている。

基本的な事実として、2023年の中国の国内総生産(GDP)の成長率は5.2%で、これに対して米国は2.5%である。一人当たりに換算するとその成長率の差はさらに大きく、中国の5.4%に対し、米国は2%である。2024年には、中国は再び米国を大きく上回るだろう。米国のマスコミが熱狂的に喧伝しているにもかかわらず、大きな成長危機はない。確かに中国は豊かになるにつれて減速しているが、それでも米国やヨーロッパよりもかなり速いペースで成長している。

確かに問題はあるが、その主な原因は米国にあり、中国経済の内部からではない。

まず、認識の問題がある。米国は中国について否定的なシナリオを押し付けている。実は最近、ドナルド・トランプ前米大統領が2019年からソーシャルメディア上で中国経済に関する悪意あるプロパガンダを広めるようCIAに命じていたことがわかった。CIAの具体的な戦術の1つは、中国の重要な一帯一路構想(BRI)の悪口を言うことだった。

第二に、米国の保護主義の台頭である。2000年から2020年までの20年間、中国はグリーン産業とデジタル産業の構築に奔走した。 電気自動車、5G、バッテリーのサプライチェーン、太陽電池モジュール、風力タービン、第4世代の原子力発電、長距離送電、その他の最先端技術の習得である。一方、ホワイトハウスと議会は、石油、ガス、石炭のロビー団体に支配されていたため新しいエネルギー技術に対する戦略がなかった。最終的に、ジョー・バイデン米大統領と議会は、米国が失地を回復する時間を与えるために、米国の産業を保護することに合意した。

第三に、中国に対する米国の「優位性」を維持するための米国の「大戦略」がある。米国の安全保障体制にとって、中国と正々堂々と競争するだけでは不十分なのだ。米国政府はまた中国経済の邪魔をする。米国がわざわざ中国経済を弱体化させるとは信じられないが、実際にそうしている。このようなアプローチは米国の上級外交官であるロバート・ブラックウィル元大使が2015年3月、共著者であるアシュリー・テリスと発表した外交問題評議会への寄稿で明言している。私はこの記事は、ワシントンの新しい対中政策を公けに打ち出してものだと見ている。そしてオバマ、トランプ、バイデンはこれを踏襲してきた。

米国のゲームプランを理解するために、ブラックウィルとテリスを引用する価値がある:

建国以来、米国は一貫して、最初は北米大陸で、次に西半球で、そして最終的には世界規模で、さまざまなライバルに対して卓越したパワーを獲得し、維持することに焦点を当てた大戦略を追求してきた。

中国をリベラルな国際秩序に「統合」しようとする米国の努力は、今やアジアにおける米国の優位性に対する新たな脅威を生み出し、やがては世界的な米国のパワーに対する重大な挑戦につながる可能性があるため、ワシントンは、中国の台頭を支援し続けるのではなく、中国のパワーの台頭とのバランスをとることを中心とした、新たな対中大戦略を必要としている。

代替バランシング戦略の中核をなすこれらの変化は、グローバル・システムにおける米国の優位性を維持することが、21世紀の米国の大戦略の中心的目標であり続けるべきであるという明確な認識から導き出されなければならない。

中国が台頭する中でこの地位を維持するためには、とりわけ、米国経済を活性化させ、他国に対して非対称な経済的優位性を米国にもたらす破壊的イノベーションを育成することが必要である;米国の友好国や同盟国間で新たな特恵貿易協定を結び、意識的に中国を排除する手段によって相互の利益を増大させる; 中国が軍事的・戦略的能力を獲得し、米国とそのパートナーに「高レバレッジの戦略的危害」を与えることを防ぐため、米国の同盟国を巻き込んだ技術管理体制を再構築する; そしていかに中国が反対しても、アジアの周辺諸国に沿って効果的に力を投射する米軍の能力を向上させ、その一方で米国の国益に見合う多様な方法で中国と協力し続けるのである。

ブラックウィルとテリスのこれらの表明は2つの理由から注目に値する。第一に、彼らは米国の”大戦略(グランド・ストラテジー )”を明確にしている。第二に、すでに2015年3月に、過去10年間にアメリカが実際に追求した政策が列挙されていることである。

ブラックウィルとテリスが推奨する5つの政策を考えてみよう。

第1に、米国経済の回復である。なるほど、それは当然だろう。米国は経済基盤を整える必要がある。

第2に、「意識的に中国を排除する」新たな貿易協定をアジアと結ぶ。中国はアジア最大の経済大国であるにもかかわらず、オバマ大統領は中国を排除するために環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を作ろうとした(そして失敗した)。トランプ大統領とバイデン大統領は中国に対する露骨な保護主義、特に世界貿易機関(WTO)の約束に違反する一方的な関税引き上げを追求した。

第3は中国のハイテク技術へのアクセスを制限する「技術管理体制」を再構築することである。これは現在進行中であり、特に中国への先端半導体技術の輸出を新たに制限している。

第4は中国との国境で政治的・軍事的同盟関係を構築する。これは、AUKUS(豪・英・米)、クアッド(豪・印・日・米)、日米比三国同盟といった米国の戦略である。

第5は「中国の反対にもかかわらず」アジアの周辺国に沿って米軍を増強する。これも、オーストラリア、日本、フィリピン、その他の国々で起こっている。

米国の「優位性」という目標は、危険なほど見当違いだ。中国の人口は米国の4倍であるため、米国の経済規模が中国より大きいままであるためには中国が一人当たりGDPで米国の4分の1以下にとどまるしかない。そうなる理由はない。もしそうなれば、中国に多くの苦しみが生じ、世界のダイナミズムが大きく失われることになる。

優位に立つことは米国の目標でも、中国の目標でも、あるいはどの国の目標にもなるべきではない。大国にとっての唯一の賢明な目標は、相互繁栄、共通の安全保障、そして環境の持続可能性や平和といった共通の課題に関するグローバルな協力である。

貿易、技術、金融、軍事政策を使って他国を阻止するという米国の脚本は米国にとって目新しいものではない。もちろん、1950年代から1980年代にかけて、ソ連を「封じ込める」ための米国のゲームプランだった。1980年代後半には、米国の同盟国である日本の急成長を阻止するために、日本が米国の産業と競合していたため、再びこの政策が展開された。米国は日本に「自主的な」輸出抑制と円の過大評価に同意するよう強要した。こうして日本の経済成長は急落し、日本は長期的な金融危機に陥った。

しかし、中国は日本ではない。はるかに大きく、強力で、米国に従属していない。1990年代の日本とは異なり、米国が中国の経済成長を減速させるために貿易政策や技術政策を追求するのを、中国は黙って見ている必要はないし、今後も黙ってみていることはない。

中国の政策選択を理解するために、国民所得勘定においてGDPはC+I+G+X-Mに等しいということを思い出してほしい。つまり、中国のGDPは、消費(C); 投資(I); 政府による消費(G);輸出(X);あるいは輸入の代替に使われる(M);中国の輸出は米国やヨーロッパに向かうこともあれば、世界中に向かうこともある。

近年、米国とヨーロッパの市場は中国の輸出に対してますます閉鎖的になっている。2023年の中国からの輸入は、2022年の5360億ドルから減少し、4270億ドルの中国製品を輸入した。米国のGDPに占める中国からの輸入の割合は、2018年には2.6%だったが、トランプとバイデンの下での米国の保護主義の結果、2023年にはわずか1.6%に減少している。

さて、では中国が直面する政策的選択は何か。中国では財とサービスの生産が増加し続け、対米輸出が減少しているため、中国は全体として財の過剰供給に直面している。この過剰供給はGDPを低下させ、もしそれを相殺する政策措置がとられなければ、中国に不況をもたらす可能性さえある。

米国は中国に対し、輸出の落ち込みを相殺するために消費を増やすよう指示する。例えば、中国は減税して消費を刺激することができる。米国の提言の問題点は、中国が米国のように低成長と財政赤字の増加にシフトする可能性が高くなることだ。

第2の選択肢は、中国がゼロ・カーボン経済への移行を加速させるために、国内投資を増やすことである。対米輸出の減少の一部を相殺するために国内投資を増やすことには一定のメリットがある。

第3の選択肢は、政府消費の拡大である。この政策も、成長率の鈍化と財政赤字の増加を伴う可能性が高い。

第4の選択肢は、発展途上国への輸出を増やすことである。これには大きなメリットがある。米国市場が閉鎖され、(欧州が保護主義的になるにつれて)欧州市場も閉鎖されるのであれば、中国は輸出を新興国市場にシフトさせることができる。その一部は自動的に起こるだろう。米国が中国からの購入を減らし、例えばベトナムからの購入を増やせば、ベトナムは中国からより多くの中間財を購入し、加工して米国に輸出するだろう。

しかし、輸出の方向転換の一部には、中国の新たな政策が必要となるだろう。新興国の購買力は、一般的に欧米諸国よりも低い。新興国は中国が提供するもの(太陽電池モジュール、風力タービン、5G、その他)を買いたいだろうが、そのためにはより多くの融資が必要だ。中国が新興国への販売を大幅に増やすには、例えば「一帯一路」構想の拡大やアジアインフラ投資銀行や新開発銀行による融資など、新興国への融資や海外直接投資を増やす必要がある。

中国の政策立案者の中には、新興国への融資を増やすことに抵抗があるかもしれない。新興国の中には、すでに債務危機に陥っている国もあるからだ。しかし、新興国の潜在成長力は概して非常に高い。債務の返済期間(満期)が十分に長ければ、債務が高すぎることはない。新興国は主に、成長し、それによって中国に借金を返済できるようになるまでの時間を必要としている。

それでは、中国の経済状況を私なりにまとめてみる。中国経済の供給サイドは急成長を続けている。中国の潜在的GDPは年率5%以上で増加し続けている。さらに、その生産の質は高く、増えている。ゼロ・カーボン・エネルギー・システム、5Gデジタル・ネットワーク、(高速都市間鉄道のような)高品質なインフラなど、世界の他の地域が必要とする商品を低コストで生産しているのは中国なのだ。

中国の問題は供給側ではなく、需要側にある。中国が需要の制約に直面しているのは、主に米国が中国の米国市場向け輸出に障壁を設けているためであり、欧州も米国に追随する可能性が高い。中国は国内消費を増やすことで輸出の減速を相殺できる可能性があるが、「一帯一路」構想のような重要なプログラムを拡大することで、新興国への輸出を増やすのが得策だろう。そのためには、新興国への長期融資を増やす必要がある。

私は、不動産への一時的な過剰投資や、一部の地方政府による過剰借入など、中国経済が直面している他の課題を否定するつもりはない。しかし、そうした問題は短期的で循環的なものであり、長期的で構造的なものではないと考えている。また、確かにフークー(都市居住)制度など、さらなる改革が必要な分野もある。しかし、ここでも改革の課題は進行中であり、成功裏に解決される可能性は高い。

私は、中国が急成長を続け、米国の4倍の人口にふさわしく現在の市場価格と為替レートのGDPで、米国を追い越すのを見たい。PPPベースでは中国はすでに2017年に米国を追い抜いており(IMFのデータによる)、米国にひどいことは何も起こらなかった。

中国の経済成長は中国だけでなく、全世界に利益をもたらす。中国は、マラリアの現代的な治療薬(アルテミシニン)から、低コストのゼロ炭素エネルギーシステム、低コストの5Gシステムまで、新しく効果的な技術をもたらした。私たちは中国の急速な発展を応援すべきである。私たちは「優位性」という子供じみた考えを捨て、相互尊重、平和的共存、地球を守るためのグローバルな協力という大人の考えを取り入れるべきだ。世界は一つの支配的な国を望んでいないし、必要としていない。実際、今日の世界では、そのようなことは実現不可能である。世界経済にとって絶対的に最善の解決策は、中国、米国、欧州が開放的な貿易と相互に合意した産業政策を維持することだろう。しかし、もし米国と欧州が中国に対して強い保護主義に転じるなら、中国にとって最善の対応は、新興経済国との貿易・金融関係を成功させ、成長させることである。

China’s economic success in face of growing U.S., EU protectionism