- 本文の内容
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- アント・グループ アントの上場を承認
- 中国アリババ集団 サン・アート・リテール・グループを買収
- 中国雑貨大手 中国版100円雑貨、本家超え
- インドネシア情勢 外資誘致法可決で解雇・賃上げ抑制容易に
アント・グループは21世紀型の理想的な銀行像を体現している
先月19日、香港取引所がアント・グループの上場を承認したことが明らかになりました。
アント・グループは上海のハイテク企業向け市場「科創板」と香港取引所に上場を申請しており、実現すれば調達額は最大で3兆7000億円となり、サウジアラムコを抜いて過去最大のIPOとなる見通しです。
ジャック・マー氏が退任した後、事業を任されているのがエリック・ジン(井賢棟)氏です。
この人は非常に器用な経営者で、アリババに来てから様々な金融サービスを立ち上げています。
決済プラットフォームのアリペイを筆頭に、オンライン金融商品「余額宝」、投資スマートフォンアプリ「アントフォーチュン」、個人の信用度をファイリングやスコアリングする「ジーマ信用」、中小企業向けローンの「網商銀行(マイバンク)」など。
しかも、Eコマース、スマートフォンなどの最先端技術を有効活用し、サービスレベルも非常に高くなっています。
たとえば、「網商銀行(マイバンク)」が提供する「網商貸」という小口融資サービスは、スマートフォンから融資申請すると、ビッグデータに基づいて融資判断が行われ、数分以内に送金されるという驚異的な仕組みを実現しています。
全体で預かっている資金も莫大で、世界中のどの銀行よりも大規模になりつつあります。
ここまで巨大に成長してきていることから、米国の金融関連企業は気を揉んでいるでしょう。
上場したときの時価総額は20兆円規模になると言われていますから、最大規模の時価総額を誇る米国の金融機関に匹敵します。
時代に追いつけていない従来の銀行からすると、「未来・将来の理想的な銀行像」の全てを体現した金融機関とも言えるほどで、21世紀型の理想的な銀行だと思います。
今後もエリック・ジン氏の活躍は続いていくでしょう。
しかし、野心を持って世界トップの銀行を狙うならば、欧米系の銀行や日本の銀行は反発し、それぞれの国に進出してくるのを規制して拒絶することもあるかもしれません。
小売業界でも躍進する中国企業の凄まじさ
中国のアリババ集団は先月19日、中国スーパー大手サン・アート・リテール・グループを子会社化すると発表しました。
買収額は36億ドル(約3800億円)。
これについて、アリババのダニエル・チャンCEOは「新型コロナで消費者の生活様式と企業経営のデジタル化が加速する中、当社の新たな小売りモデルを作りあげる」と語りました。
米国でもアマゾンのようなインターネット企業が、ナチュラル食品などを扱っているスーパーを買収して、リアルとサイバーの両方を抑える戦略を取っています。
今回のアリババによるサン・アートの買収は、全く同じ戦略でしょう。
小売業界でも、さらにアリババが強さを増しつつあります。
小売業界で躍進する中国企業として、名創優品(メイソウ)も注目したいところです。
日経新聞は先月21日、「中国版100円雑貨、本家超え」と題する記事を掲載しました。
日本風の商品や店作りで成長してきた中国の雑貨店大手、名創優品(メイソウ)がニューヨーク証券取引所に上場したと紹介。
メイソウは世界80カ国・地域で4200店以上を展開しており、日本の100円ショップであるダイソーや無印良品の模倣との指摘があるものの、成長スピードは本家を上回るとしています。
メイソウは100円ショップのノウハウを日本から学び、今では非常に品質が高いものを作るようになり、凄まじい勢いで成長しています。
メイソウがお手本とした日本のダイソーも真っ青な成長スピードです。
この時期に米国の証券取引所に上場するというのは、中国企業としてはかなり勇気が必要なことだと思います。
業態的に中国政府に情報が流れるという疑いを持たれにくいために、ニューヨーク証券取引所で上場承認されたのでしょう。
外資誘致法を可決したインドネシアに、日本はどう対応するべきか?
日経新聞は先月13日、「インドネシア、外資誘致法可決で解雇・賃上げ抑制容易に」と題する記事を掲載しました。
インドネシア国会が、外資からの投資を促す制度一括改正(オムニバス)法を可決したと紹介。
最低賃金の上昇を抑制する他、解雇の条件を増やすなどして雇用制度を柔軟化し、労使環境の改善を目指すものですが、反対する労働者や学生がジャカルタなどの主要都市で大規模なデモを実施したとのことです。
インドネシアと主な周辺国の直接投資受入額を見ると、ベトナムの受入額がインドネシアを上回り大きくなっています。
インドネシアとしては、人口が少ないベトナムに抜かれている状況ですから、もっとインドネシアに企業を誘致したいという思いがあるでしょうし、それは間違っていないと思います。
日本としてもインドネシア投資を考慮する余地は大いにありますが、政治は腐敗していて指導者の方針も一貫性を欠いていますから、状況によってはどうなるかわからない、と認識しておくべきでしょう。
ベトナム政府は共産党一党支配が強く、やはり政治腐敗は深刻です。
周辺国の中では、タイはもっとも政権が安定していて、海外からの投資についてもオープンな姿勢をとっています。
しかし、すでに日本企業はタイには徹底的に投資しています。
その意味でも、インドネシアには期待したいところです。
日本からインドネシアへの投資にあたっては、インドネシア高速鉄道計画におけるインドネシアの日本に対する「不義理」を謝罪してもらってから考える、という態度でも良いと私は思います。
インドネシアは、首都ジャカルタと西ジャワ州バンドン間150kmを結ぶ高速鉄道の建設計画にあたり、散々日本に研究させてプランを提出させておいて、それを中国に渡して日本と手を切ったという過去があります。
その後、中国による高速鉄道の建設は遅々として進んでいませんから、インドネシアが再び日本を頼ってくる可能性もあるでしょう。
しかし、ジョコ大統領が過去の「不義理」について反省し謝罪する前提がなければ、日本が対応する必要はないと私は思います。
今回の法案可決を受けて、インドネシアの学生などが「職を失うのではないか?」と心配しているということですが、私は杞憂だと思います。
外資による投資が増えると、むしろトータルでは雇用が増える可能性のほうが高いと感じます。
インドネシア人は英語を話せる割合も高いですし、人口も多いので、労働力として十分に活躍できるはずです。
解雇できる自由度が上がるからと言って、必ずしも解雇される人が増えるわけではありません。
この辺りを上手に説明できる人がいれば、デモを行った学生たちの不安も払拭できるのではないかと思います。
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※この記事は10月25日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はアント・グループのニュースを大前が解説しました。
大前はアント・グループが生み出した最先端の技術を駆使したサービスに触れながら、「『未来・将来の理想的な銀行像』の全てを体現した金融機関とも言えるほどで、21世紀型の理想的な銀行」と述べています。
最新テクノロジーに関するニュースが日々飛び込んできます。
しかし、こういった取り組みに感心しているだけでは、せっかくの情報を有効活用できていません。
自社だったら、どういうことができるのか。
常にアウトプットする姿勢を持つことが大切です。
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