コロナショック、地価下落は「序の口」か、それとも「一時的」か 実需は「減」、金融要因は「増」

現代ビジネスに4月1日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81779

大阪圏、急落

地価が下落に転じている。国土交通省が3月23日発表した2021年1月1日時点の「公示地価」によると、東京・名古屋・大阪の3大都市圏の全用途平均の地価が、8年ぶりにそろって下落した。新型コロナウイルスの拡大によって経済活動が停滞する中で、全国平均の「商業地」の地価が0.8%下落、「住宅地」も0.4%下がった。

飲食店や小売店などの閉鎖などが相次いだことで、商業地の需要が低下、特に海外からの訪日外国人客が激減したことから、これまでインバウンド需要を見込んで出店などが加速してきた地域での地価下落が目立った。

また、リモートワークが拡大したことで、オフィスを縮小する動きが出始めるなど、オフィスビル用地などの需要も激減。地価下落に拍車がかかった。

地域別にみると、インバウンド需要の恩恵を受けていた大阪圏の商業地の下落が大きい。2019年には6.4%、2020年には6.9%と大きく上昇していたものが、一気に1.8%の下落となった。

大阪圏の商業地が下落したのは2013年以来。名古屋圏の商業地も同様に2019年が4.7%、2020年が4.1%の上昇だったものが、2021年は1.7%の下落となった。東京の商業地は1.0%下落した。調査地点で最も下落率が大きかった商業地は大阪道頓堀1丁目で28.0%も下落。下落率上位10地点中8つが大阪だった。

東京でも銀座8丁目の商業地が12.8%下落したのに続き、台東区浅草の商業地が下落率2位、3位を占め、インバウンド消費が落ち込んだ影響が鮮明に現れた。

郊外住宅地では上昇も

2020年に日本を訪れた訪日外客数はJINTO(日本政府観光局)の推計で411万人と、過去最多だった2019年の3188万人から一気に87.1%も減少。東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第1原子力発電所事故で訪日客が激減した2011年の621万人をも下回って22年ぶりの低水準となった。

新型コロナが終息する見通しが立っておらず、訪日旅行客が回復する見込みが立たないことから、インバウンド期待の商業地の需要増加は当面見込み薄とみられる。

一方で、新型コロナに伴う在宅勤務の増加や外食自粛に伴う自宅での食事へのシフトなどが生活スタイルを大きく変えたことから、郊外の住宅地などでは地価が上昇する地点もみられた。

これまで都心に通勤することを前提に住む場所を決めていた人たちが、より生活の豊かさを実感できる場所を選ぶ傾向が強まっているとされ、通勤時間に囚われない住宅地の選定が増えているとみられる。

もっとも、全体としては人口の減少傾向が続いていることで、住宅を購入する若年層が減っていることから、こうした住宅地の需要がいつまで続くか疑問視する向きもある。

リーマンショック後に比べればまし

問題は、こうした地価下落傾向が今後も続くかどうか。

経済の悪化に伴う地価下落としては、リーマンショック後の2010年の下落率に比べるとまだまだ小さい。GDPの下落はリーマンショック後を上回るとみられるが、地価下落に関する限り、現在のところリーマンショック時ほどの影響は受けていない。

理由のひとつはリーマンショックが金融界発の危機だったため、金融機関の貸し出しに影響が出るなど、不動産売買に金融面でも大きな影響があったが、今回は政府の経済対策もあり、かつてない金融緩和や財政支援が行われているため、不動産金融に影響が出ていないことが挙げられる。

リーマンショック後の2010年の全国平均の住宅地の下落率は4.2%に達し、商業地も6.1%に達した。全国平均で商業地がプラスに転じたのは2015年、住宅地は2017年のことで、影響が5年から7年に及んだ。2021年の下落率は住宅地・商業地ともにまだ1%未満で、当時と比べれば小さい。

金融緩和が下支え

もっとも、経済への影響はむしろこれからが本番という見方もある。また、東京オリンピックパラリンピックに海外からの観戦客を受け入れないことが3月下旬になって決まっており、その影響は今回発表の公示地価には反映されていない。

オリパラを見込んでホテル建設を行った企業などがそれを売却する動きなどが強まれば、さらに地価が下落する可能性もある。

一方で、大規模な金融緩和によって、ダブついた資金が不動産に流れ込んでおり、地価の下落を下支えしているという見方もある。金融緩和によって貨幣価値が下落する可能性もあり、実物資産である土地や株式などへのシフトが今後も続くとの見方がある。すでに株価は上昇を続けており、土地でも同様の傾向が強まるというわけだ。

その際は、これまでのようなインバウンド消費を狙った飲食店街や繁華街などの商業地ではなく、もともと土地としてのブランド力の高いところに資金が集まる可能性が出てくるとみられる。ブランドイメージの高い商業地や高級住宅街の地価はあまり下がらないことになるかもしれない。

いずれにせよ、土地の利用価値を前提とした「実需」を前提にすれば地価の下落は続くと見るべきだろうが、金融緩和や貨幣価値の下落といった「資産」としての土地の価格を考えると、上昇に転じてもおかしくない、ということになる。2022年の公示地価がどちらに動くのか、注目したい。