No. 1474 キッシンジャーの言う通りだ

キッシンジャーの言う通りだ

今回に限っては。

by Mike Whitney

世界経済フォーラムでのヘンリー・キッシンジャーのスピーチがなぜこのような騒ぎになったのか知っているだろうか?

キッシンジャーはウクライナ戦争の進め方や、現地での進展のなさを批判したのではない。そうではない。キッシンジャーが批判したのは政策そのものであり、それが大炎上の引き金になった。彼は、このおかしな政策を練り上げた人々に、面と向かって「間違っている」と言って冷や水を浴びせたのだ。

そして、彼らの思い込みは間違っていた。なぜなら彼らが現在進めている政策は米国の同盟国と米国の利益を害しているからだ。それはある特定の政策が愚かかどうかを判断するための尺度だが、残念ながら見事に「愚かなテスト」に合格している。

説明しよう。我々の基本戦略はロシアとヨーロッパの経済関係を断ち切り、ウクライナで長く費用のかかる泥沼に追い込むことで、ロシアを「弱体化」させ「孤立化」させることである。それが計画だ。

あなたはこれをかなり合理的な話だと思うかもしれない。しかしキッシンジャーによれば、これは間違った計画だという。

なぜか?

なぜなら米国の国家安全保障戦略は中国を米国の一番のライバルとみなしている(実際そうである)。したがって当然、いかなる政策でも中国を強くすることは米国の戦略的利益に反する。

わかったか?そこで質問。ウクライナでの代理戦争は、中国をより強くするだろうか?

そしてその答えは。もちろん、強くする。ロシアが中国との関係を強化せざるを得なくなり、中国がより強くなるのである。

現実的に、これはどういうことだろうか?

つまりこれは世界の製造業大国(中国)と世界第2位の炭化水素生産国(ロシア)の関係は、ワシントンのウクライナでの非生産的な戦争のおかげで非常に良くなったということだ。そういうことである。また中露の関係が改善すれば非ドル圏が拡大し、二国間貿易が現在の米国支配の世界貿易システムに徐々に取って代わるため、米国帝国の衰退のペースが加速されることを意味する。

すでにこのような事態が起きていることはわかるだろう。ウクライナでの戦争は世界貿易の衝撃的な崩壊、重要な供給ラインの大きな崩壊、前例のない食糧とエネルギーの不足、そしてソビエト連邦の崩壊以来最大の世界の再分割を引き起こしたのだ。米国は米国史上最大の戦略的大惨事となりかねない無意味な地政学的策略に自国と米国民の将来を賭けることを決定したのである。

キッシンジャーは事態の深刻さを理解しているからこそ自分の意見を述べることにしたのだ。しかし彼はこの政策に批判的なだけでなく、メディアからはほとんど無視されている不吉な警告を発した。その内容は次の通りである:

     簡単に乗り越えられないような大混乱や緊張を生む前に、これから2ヶ月の間に交渉を始める必要がある。

 理想的には、分割線は現状復帰であるべきだ(…) その先まで追求すると、ウクライナの自由のためではなく、ロシアに対する新たな戦争そのものになってしまうだろう。

これは書かれている通りだが、彼が言っていることをよりよく理解するために2つに分けて考えてみよう。

1.政策が間違っている

2.政策を直ちに変更しなければいけない、さもなければ米国とその同盟国への損害は深刻で永久的である。(交渉は2ヶ月以内に開始する必要がある。)

ある人にとってこれはあまりに黙示録的な話かもしれない。しかし私はキッシンジャーが何かを掴んでいると思う。結局のところ、紛争が始まって以来世界がすでに経験した大きな変化を見てほしい。供給ラインが途絶え、食糧やエネルギーは不足し、グローバリゼーション・プロジェクトは後退した。かなり大きな変化である。しかしこれはおそらく氷山の一角に過ぎない。本当の痛みはこれからだ。

家庭の暖房費が高騰し、ヨーロッパ中の産業がエネルギーコストの上昇に見舞われ、失業率は世界恐慌のレベルまで上昇し、計画停電が西側諸国の日常茶飯事となったら、今年の冬はどうなるのだろうか?もしこの政策を撤回し、交渉による解決を急がなければ、ヨーロッパとアメリカはそのような未来になるのだ。

プーチンはすでにロシアが再びヨーロッパに経済的に依存するような状況に陥ることはないと明言している。もうそんな時代は終わったのだ。その代わりに彼は重要なエネルギーの流れを中国、インド、そしてその先に向けている。ヨーロッパはもはや優先的な顧客ではなく、むしろロシアの生存を脅かす存在になりつつあり、ロシアは今後も生産を東に向けていくだろう。

これはヨーロッパにどのような影響を与えるのだろうか?

それは簡単だ。ヨーロッパは、世界のどの国よりも高いエネルギー料金を支払うことになる。それは、ロシアの正当な安全保障上の要求を無視することで選んだ道であり、その結果に耐えなければならない。

そこで、皆さんは次のことを知っておく必要がある:

* 2021年、ロシアはEUで消費される全天然ガスの40%を供給した。

* 2021年、ロシアはEUで消費される石油の25%以上を供給した。

もしあなたが、この量の炭化水素を、ナイジェリアやイラン、サウジアラビアなど、遠く離れた場所の生産者が代替できると考えているのなら、それは大間違いだ。ヨーロッパは歴史上最大のエネルギー危機に向かってまっしぐらに進んでおり、自分たちを責めるしかない。以下は、RTの記事からの引用である。 

    国際エネルギー機関(IEA)の長であるファティ・ビロルは、現在のエネルギー危機は史上最悪かつ最長のものになる可能性があり、欧州諸国は特に大きな打撃を受けると述べた。ドイツの雑誌『デア・シュピーゲル』とのインタビューでビロルは、ウクライナでの出来事の影響で、現在のエネルギー危機は1970年代の危機よりも悪化する可能性があると述べた。

 当時は石油がすべてだった。“今は石油危機、ガス危機、電力危機が同時に起きている”。ビロルは、現在進行中のウクライナ情勢以前は、ロシアは「世界最大の石油輸出国、世界最大のガス輸出国、石炭の主要供給国であり、世界のエネルギーシステムの要であった」と付け加えた。

    ウクライナ関連の制裁の一環として、EUはロシアの化石燃料に対する制限を導入し、段階的に廃止していくと公約している。ビロルは、ロシアのガスへの依存度が高いヨーロッパ諸国は「困難な冬」に直面しており、ドイツを含め「ガスの配給が必要になる可能性が十分にある」と警告している。この発言は、ロシアの国営ガス会社ガスプロムが、ドイツ、デンマーク、オランダなどの一部のエネルギー企業に対し、新たな要件であるルーブルでの燃料代金を支払わなかったため、供給を停止したことを受けてのものだった。{1}

つまり、暗闇の中で凍死することは、ウクライナが中立を保ち、東部のロシア系民族の殺害を止めることを主張するよりも望ましいということなのだろうか?それがヨーロッパが守ろうとしている「原則」なのだろうか?

もしそうなら、それは悪い選択だ。

ここで熟考してほしいことがある。「オイルブレンド」はすべて同じではないことを知っているだろうか?

なぜそれが重要か。

なぜならドイツは現在、石油の34%をロシアから輸入している。そしてロシアの石油は、十分に実績のある高品質のウラルブレンドで、ドゥルジバ・パイプラインを通じて、特定の処理要件を満たすように設計されたドイツの精製所に大量に供給されている。供給元が異なると、精製プロセス全体が狂ってしまう。そのためには多くのものが必要とされる:

… 新原料ラインの改造とインフラ整備、常圧蒸留装置、常圧蒸留装置、減圧蒸留装置、キャットクラック装置、ビスブレーキング装置、キャットクラック装置、ビスブレーキング設備、アルキル化装置、触媒改質装置、異性化装置、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)、異性化装置 、エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル(ETBE)設備。さらに、24時間365日スムーズなドルジバ・パイプラインの代わりに、ロストック・フィード用の新しい貯蔵施設+ハンドリング装置も必要だ。{2}

では、すべてのブレンドオイルは同じではないのか?

まったく違う。その上、製油所の改造にはおよそ6年かかると業界の専門家は見積もっている。その間に、エネルギー消費と密接な関係にあるドイツの経済成長は劇的に落ち込み、企業は閉鎖され、失業率は急上昇し、EUで最も強力で生産的な国は屈服することになるだろう。

ドイツ政府の誰かが、ロシアの石油をボイコットすると決める前に、こうしたことを考えるべきだったのではないだろうか?

我々が言いたいのは単純なことだ。キッシンジャーは正しく、失敗したウクライナ戦略を練り上げたネオコンのピエロは間違っている、大間違いだ。そして、キッシンジャーが助言するように、「今後2ヶ月の交渉」を招集しなければ、ロシアとの断絶は最終的かつ不可逆的になる。その時点で、ロシアの膨大なエネルギー資源、鉱物資源、農産物は、より友好的な国へと永遠に東に向かうことになる。そしてそれは、米国とその同盟国であるヨーロッパの双方に多大な苦痛を与えることになる。

唯一の合理的な行動は、今すぐに和平交渉を開始できるよう、即時停戦を呼びかけることだ。

Links:

{1} https://www.rt.com/business/556430-fuel-rationing-coming-europe/

{2} http://thesaker.is/germans-schwedt-hard-for-russian-oil/

Mike Whitney Archive: https://www.unz.com/author/mike-whitney/

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