ニトリとDCMの「島忠」争奪戦が暗示する消費氷河期の厳しい未来 「巣篭もり特需」はいつまでも続かない

現代ビジネスに10月22日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76626

絶好調企業たちの焦り

家具大手の「ニトリホールディングス」が、ホームセンターを展開する「島忠」の買収を検討していると10月20日、大手メディアが一斉に報じた。

島忠を巡っては、ホームセンター大手の「DCMホールディングス」が完全子会社化することで島忠経営陣と合意しており、すでに10月5日から11月16日までを期日として、1株4200円でTOB(株式公開買付)を実施している。

そこにニトリが割って入る格好になった。ニトリは10月中にも別途TOBを開始するとみられており、TOB合戦で島忠の争奪戦に発展する見通しだ。

新型コロナウイルスの蔓延で、在宅勤務などが広がったことで、住宅地のホームセンターや家電量販店などの売り上げが大幅に伸びている。いわゆる「巣篭もり効果」だ。

ニトリの2020年8月中間決算は売上高が3624億円と前年同期比12%も増加。純利益も35%増の497億円の中間決算としては過去最高を記録した。DCMの中間決算も売上高が11%増加。純利益も78.4%増と利益が急増している。

絶好調な業績を背景に、M&A(合併・買収)による業容拡大を急いでいるようにも見えるが、実際にはニトリにしてもDCMにしても、ある危機感がM&Aを加速させていると業界関係者はみる。

その危機感とは、ズバリ、「巣篭もり効果」の終焉。今はたまたまテレワークが追い風になっているが、新型コロナ不況が深刻化すれば、早晩、消費需要は落ち込む。もともと家電量販店やホームセンター業界は飽和状態と言われ、すでに合従連衡が始まっていた。

本格的な消費不況が来る前にM&Aで同業者を取り込み、強固な経営基盤を作り上げておこう、ということのようだ。

一過性のコロナ特需なのか

では、いつまで「巣篭もり消費」は続くのだろうか。

IT系の企業はもちろん、伝統的な大企業でも、新型コロナをきっかけにテレワークが一気に進んだ。テレワークでも業務に支障がないことが明らかになった業種もあり、今も出社するのは週に1日、2日といった企業も少なくない。在宅時間が増えたことで、住宅地周辺の食品スーパーなど「巣篭もり需要」が一気に膨らんだ。

例えば、スーパーの売上高を見ると、新型コロナをきっかけに、売上高が前年同月比プラスに転じている。日本チェーンストア協会の統計では、既存店ベースでは2月以降、4月を除いて増加が続いている。中でも食料品は2月から7カ月連続でプラス続きた。

こうしたスーパーの好調は、新型コロナによって消費のシフトが起きたことが要因と見ていい。会社の周辺で外食しなくなったものが、自宅周辺の食品スーパーやテイクアウトのお店にシフトした。

都市部に店舗のある百貨店の売上高は3月以降、壊滅的なマイナス幅になったが、「食料品」だけとってみても3月以降、2ケタの対前年同月比減が続いている。完全の人々の消費行動が変わったことで、業種によって明暗を分ける結果になっているのだ。

ホームセンターや家電量販店もこうしたテレワークによる生活スタイルの変化が追い風になったのは言うまでもない。だが、それがいつまでも続くか、というと懸念材料もある。

在宅勤務になって、簡単な仕事机や照明器具を購入したり、パソコン周辺機器を揃えた人は多い。これが売り上げを大きくふやすきっかけになったわけだが、そうした機器は一度買えば済む。一過性の「新型コロナ特需」だった可能性があるわけだ。

定額給付金10万円効果

もうひとつ大きいのが、ひとり一律10万円が支給された「定額給付金」の効果だ。

ホームセンターや家電量販店で扱う商品が、「プチ贅沢」で買うにはちょうど良かったという面もある。定額給付金はかなりの部分が貯蓄に回った、という見方もあるが、かなりの割合が、ホームセンターや家電量販店での消費に回ったのではないか。

自動車販売が9月になっても大幅なマイナスを続けているのをみても、自動車を買い替えるほどの余裕は家計には生まれていない、という見方 もできる。

総務省の家計調査によると、勤労者世帯の「実収入」が5月以降急増している。5月は9.8%増、6月15.6%増、7月9.2%増といった具合だ。これは明らかに10万円の定額給付が効いている。経済活動が止まって経済危機が懸念された中で、実収入は逆に増えたのだ。この一部がホームセンターの売り上げを押し上げたとみていい。

逆に言えば、10万円の定額給付を使い切れば、その消費は消えて元に戻る可能性がある、ということだ。最新の8月の家計調査では、「実収入」は1.2%増にまで伸び率が鈍化している。つまり、巣篭もり需要を支えていた収入が消え、消費も落ち込む可能性があるのだ。

消費の実像

さらに、今後の消費が落ち込む懸念も強まっている。

全日本空輸ANA)は10月上旬、社員の基本給の引き下げを行うとともに、冬の一時金をゼロにすることを労働組合に提示したと報じられた。年収ベースで平均3割減少するという。さらに、希望退職の募集も行う方針だという。

新型コロナに伴い人の移動が激減したことで、ANAの4~6月期は売上高が前年同期の4分の1に落ち込み、最終損益で1088億円の赤字を計上した。新型コロナの影響は航空会社が最も激しいとみられてきたが、いよいよその業績悪化が賞与だけでなく基本給の削減、人員削減という事態に至ったのだ。

鉄道・バスや旅館・ホテル業、旅行代理店、外食、アパレルなど、大打撃を受けている業種は少なくない。しかもそこで働く人の数はかなりの数にのぼる。

ANAの方針に衝撃を受けた人は少なくないはずだ。「他人事ではない」と感じれば、先行きへの不安が募り、一気に財布の紐を締めることになる。今後、本格的に消費が落ち込むことになりかねない。年末商戦はかつてない落ち込みになるかもしれない。

そうした消費の先行きを睨んでいるからこそ、早期に業界再編を進め、生き残りを計ろうというのがDCMやニトリが島忠争奪戦を演じる本当の理由と見るべきだろう。