2020年11月7日土曜日

刑事告訴記(中間メモ)

  ツイッターでつぶやいていますが,地方の某業者を著作権侵害で刑事告訴する事案を進めています。昨日,告訴状を出してきました。フィニッシュまでまだしばらくかかりそうですが,節目ということで,これまでの経緯を中間メモとして書いておこうと思います。

 以下は,事柄の時系列表です。相手に送信したメールや,ツイッターでの投稿記録をもとに正確に作成しました。下線以下は,昨日刑事から聞かされた今後の展望です。


 6月12日,地方の某業者のブログにて,私のブログ記事が無断転載されているのを発見しました。2014年2月9日の「職業別の生涯未婚率」です。統計表がそっくり転載され,文章も酷似していました。コピペした後,ちょっといじっただけとみられます。

 これはアクセスが稼げると,不正に踏み切ったのでしょう。私のブログからの転載という旨も記されていませんでした。立派な盗用です。仮に出典を記していたとしても,正当な引用の範疇を越えているのでアウトですが。

 もう慣れっこですので,「ああ,またか」と特段怒りを感じることもなく,「無断転載ですね,削除してください」とメールしました。削除されたのを確認した後,次のステップとして,問題の解決金を請求しました。2017年1月13日以降,およそ3年間半にわたって会社のブログで営利利用していたわけですので,記事の使用料,ならびに私が被った精神的苦痛への慰謝料の意味合いです。

 いくら請求したかは伏せておきます。弁護士に話したら,「ゼロを一つつけても全然問題ないですよ」と言われました。私は本当に世間知らずです

 期日は6月30日に設定しましたが,待てど暮らせど入金がありません。1週間前の23日に,「あと一週間です,私の要求に応じる気がないならば,その旨お知らせください」とメールしました。しかし返信がありません。

 期日の30日,私はこの業者に電話をしました。相手は,盗用については謝罪を口にしましたが,「こんなのはスピード違反と一緒で,誰だってしてると思っていた」などと言い,あまり反省してないみたいでした。お金については,払うつもりはないと拒否されました。

 「ああ,これは話し合ってもダメだな」と,私は交渉を打ち切り,弁護士に相談することを思い立ちました。知り合いの弁護士はおらず,「横須賀 弁護士」でググってトップに出てくる大手業者に頼もうかと思いましたが,公的な法律相談サービスを使うことにしました。市の無料相談だと25分しか話を聞いてくれないので,神奈川県弁護士会の有料相談(5000円)にしました。場所は,横須賀中央駅から徒歩5分ほどの横須賀法律相談センター(ヴェルクよこすか3階)です。


 ちょっと間が空いた7月17日,相談に行きました。相手をしてくださったのは,30代くらいの若い弁護士さんです。礼儀正しく,市役所の職員さんに接遇されている感じでした。

 私は経緯を説明し,問題のパクリ記事と自分の記事原本を見せ,「どうしたらいいでしょうか」と尋ねました。弁護士さんによると,これは著作権法違反で,民事調停で話し合ってもいいが,刑事事件で行けると思うので,警察に行ってみたらどうか,ということでした。

 私としては少額訴訟をイメージしており,刑事事件化なんて微塵も考えてませんでしたので,ちょっと意外でした。ただ,「いきなり横須賀警察署に行っても嫌な思いをするだけなので,まずは県警の告訴センターに電話し,そこから署に話を通してもらうといいですよ」というアドバイスを受けました。

 私は帰宅後,すぐに神奈川県警の告訴センターに電話し,事件について話しました。「著作権法違反なんて,珍しい案件ですね」と相手はちょっと驚き,「あなたの住所の所管は横須賀警察署ですので,こちらからメールをしておきます」と言ってくれました。

 週が明けた20日の月曜日の朝,警察署に電話をしたところ,専門部署の刑事さんに取り次がれ,「本部から話は来ています。お話を伺いたいのですが,今日の午後,来れますか?」と言われ,せっかちな私は「行きます!」と返事しました。


 午後1時にアポを取り付け,定刻に行きました。通されたのは4階の取調室で,ドラマでよく見るような灰色のデスクを挟んで,担当の刑事さんと向き合って座り,私は話を始めました。

 刑事さんは問題の記事と原本記事を丹念に見比べ,「ああ,これはパクリですね」と口にし,私の事情説明を頷きながら聴いてくれました。ただ,いろいろな角度から質問を投げかけてきました。間を置いて同じ質問をしてくることもありました。話に矛盾がないか,答えに変化がないかをチェックし,話全体の信ぴょう性を推し量っているのでしょう。この辺りは,さすがプロだなと思いましたね。

 話すこと2時間,「お話は分かりました,動いてみることにしましょう」となりました。刑事事件化の決定です。「後日,連絡をしますので,その時にまた署にお越しください」と言われ,私は警察署を後にしました。

 いやあ,ちゃんと下準備をして行けば,警察はまともに対応してくれるのですね。緊急を要する事件は別ですが,いきなり警察署を訪れて,窓口の制服警官に「すみません」と話しかけても邪険にされるだけです。私自身,それを経験したことがありますので,よく分かります。

 ネット上で名誉毀損や著作権侵害をされ,「これは悪質なんで警察に行こう」と思っている人は,しっかりとした下準備を経てからにするのをお勧めします。上記のような,私が踏んだステップはその一例です。

 ただ,警察が事件化してくれるのは,相手の身元が分かっているケースに限られると思った方がいいです。私の件で警察が動いてくれることになったのは,相手の身元が割れていたからであって,匿名ブログとかの場合だったら,「弁護士に頼んで,発信者を突き止めてください」と言われたことでしょう。警察も発信者を突き止める力を持ってますが,警察が発信者情報開示に動いてくれるのは,要人への殺害予告とか大イベントの妨害予告とかの事案に限定されると思われます。「弁護士に頼んだら数十万円かかるが,警察ならタダだぜ」という考えは通用しません。

 8月12日,刑事から「事件調書を作るので,9月初頭に署まで来て協力してほしい」と電話がありました。本当に動いてくれるのか半信半疑だったのですが,どうやら本気みたいだなと安堵しました。

 9月3日に,私は資料を持って再び署を訪れました。刑事が作ったという分厚い調書草案を見せられ,2人で読み合わせて,誤字や記載事実に誤りがないかを確認する作業です。私は卒論ゼミを持っていた時,学生が書いてきた原稿を当人の前で音読し,「これでいいと思うか?」と問うたら,ほとんどの子がうなだれていましたね。音読すると分かるんですよ,リズムの悪さや論理の飛躍とかが。

 それはさておき,その調書といったら細かいこと。「これもでもか」というくらい,状況や事の経緯が詳細に記されています。事件の復元・可視化です。レイプ事件の調書づくりなんかは,被害者にすれば地獄以外の何物でもないでしょう。事件時のことを,非常に具体的なレベルで思い出し,供述することを求められるのです。これに耐えられず,「もういいです」と,訴えを取り下げる人だって多いと思います。

 作業すること約2時間,「これで調書はOKです。次は,**県の被疑者宅まで,部下と一緒に事情を聴きに行ってきます」と刑事は言いました。電話でもよさそうなものですが,相手がどんなに遠方だろうと,刑事2名で事情聴取に行かないといけないのだそうです。分厚い調書づくりといい,遠方の被疑者への事情聴取といい,刑事事件一つ処理するのに,スゴイ労力が要るのだなあと思いました。

 「**に行って事情聴取が終わったら連絡する」と言われましたが,なかなか連絡がきません。今,持続化給付金の不正摘発に忙しく,**まで行く時間が取れないのかなと,気長に待つことにしました。

 2か月近く経った10月29日,「お待たせしました,昨日,**に行ってきました。相手は罪を全面的に認めています」と電話があり,「正式に告訴状を出していただきたく,3度目になりますが,署までお越しください」と言われました。

 ここで「?」と思われた方もいるでしょうね。告訴状も出されてないのに,どうして捜査(被害者への聴取,加害者の取り調べ)に踏み切れたのか。普通は,加害者への訴追を求める告訴状が出された後に,捜査を開始するものではないのかと。私も疑問に思ったのですが,2018年末の法改正により,著作権法違反の場合は,被害者から告訴状が出されていなくても,捜査を開始できることになったそうです。ネット上でのあからさまな知的財産侵害が多くなっているからでしょうか。

 私は11月6日,横須賀警察署に出向き,本件の告訴状を提出しました。犯人を厳重に罰していただきたい,という意思表示です。


 刑事から告訴状のコピーを渡され,「これで舞田先生にしていただくことは終わりです。今後の流れとしては,まず年内に被疑者をここまで呼び出し,写真撮影と指紋採取をし,データとして登録します」と言われました。いわゆる前歴がつくってやつですね。

 その後,年明けに**県の検察に送検するとのこと。逃亡や証拠隠滅の恐れはないので,被疑者の身柄拘束(逮捕)はしない,書類による送検です。後は向こうの検察の判断で,起訴か不起訴かが決定されます。「不起訴になる可能性もありますが,被害者の舞田先生は厳罰を望んでいると,送検の際に書き添えておきます」と刑事は言いました。

 法務省の『検察統計』で調べてみると,著作権法違反事件の起訴率は7割ほどで,他の罪種に比べると高い部類です。動かぬ証拠が残りやすいためでしょう。逆に,密室で行われ,物証が残りにくい強制性交罪の起訴率は4~5割と低くなっています。

 仮に起訴となった場合,裁判となりますが,今回の事件の場合は,法廷での正式裁判になる可能性はないです。略式裁判で,書面で罰金刑が言い渡されてエンドになるでしょう。

 罰金くらいなら軽くていいや,なんて思ってはいけません。前科がつきます。事業をやっている人にすれば,影響は大きいはず。弁護士は「告訴されたのを知ったら,お金積んで示談申し入れてきますよ」と言っていました。

 以上,現在やっている刑事告訴の中間報告です。6月に事件が発覚し,決着がつくのは来年春先の見込み。単純な著作権法違反ですが,トータルで約8か月かかると。長期戦ですが,警察が動いてくれるのは頼もしい限りです。

 私は,作品の盗用被害に遭うのはしょっちゅうです。随所で言ってますが,今後は一切容赦しません。刑事・民事の両面において,厳しく責任を追及します。