2020年3月5日木曜日

低学年児童の母親のすがた

 今週から小・中・高校の一斉休校が始まっています。

 学校が休みになるわけですが,パワーにあふれた若き青少年が家に籠るのは苦痛らしく,電車に乗って都心に繰り出す,カラオケの密室で仲間と群れる…。学童保育は児童が殺到してぎゅうぎゅう状態。通常の学校の教室よりも,ずっとハイリスクなんじゃないかと思います。

 それではと,「学童保育に学校の施設(教室)を使っていい」というお達しも出ましたが,いったい何のための休校なのやら。

 一斉休校の影響で,世の中の歯車も狂いだしています。小学校低学年の子がいる労働力(主に母親)が自宅に釘付けになり,出勤できなくなっているからです。診療を縮小する病院,登園自粛を求める幼稚園・保育園も出てきました。ゆえに,就学前の乳幼児を持つ親も自宅に縛られ,その分の労働力が減り,社会の随所で機能不全が起きています。

 一斉休校を決めた為政者は,小さな子がいる世帯として,「父正社員+母主婦」という伝統家族をイメージしていたのでしょうが,今はそういう世帯は少数派です。

 データで,小学校低学年の子がいる年代の母親のすがたをみてみましょうか。年齢は30代と考えるのが普通でしょうが,晩産化が進んでいるので,40代前半までを射程に据えましょう。私は2015年の『国勢調査』をもとに,子がいる核家族世帯で暮らす,30~44歳の女性の労働力状態を明らかにしました(労働力統計の01400表。「夫婦+子」ないしは一人親世帯の女性で,3世代世帯は含みません。

 以下の表は,労働力状態が分かる766万人の内訳表です。就業者は,従事している産業(A~T)別にしています。


 低学年の子がいる年代のママのすがたです。全体の3割が非労働力(≒主婦)で,67.9%が仕事をしている就業者(A~T)となっています。今では,働いているお母さんがマジョリティです。

 どういう産業で働いているかをみると,最も多いのは医療・福祉で,その次は卸売・小売業となっています。後者の多くは,お店の店員さんでしょう。医療・福祉は,看護師,保育士,介護士等が多いとみられます。

 低学年の子がいる年代のママの15.8%(6人に1人)が医療・福祉産業で働いているのですが,この労働力(実数で121万人)が自宅に釘付けとなったら痛い。診療を縮小する病院,休園する保育園も出てくるはずです。

 上記は全国データですが,地域差があります。同じデータを47都道府県別に作ると,分布がかなり違っています。非労働力(主婦)の割合は,私が住んでいる神奈川では35.5%ですが,福井では17.3%しかいません。

 人の命を預かる医療・福祉産業で働いているママの率も,地域によって違っています。子がいる核家族世帯の35~44歳女性のうち,この産業で働く人は何%か。全国値は15.8%ですが,47都道府県を高い順に並べると以下のようになります。


 上位には地方県が多くなっています。高知は26.0%,島根は25.5%と,4人に1人が医療・福祉産業で働いています。高齢化が進んでいるので,さもありなんです。

 ただこれは,35~44歳女性の中でのシェアです。県の医療・福祉産業従事者に占める割合にするとどうか。一斉休校によって,県の医療・福祉産業従事者の何%が喪失する恐れがあるか? こういう問いを立ててみましょう。

 2015年の『国勢調査』によると,全国の医療・福祉産業従事者は702万3950人です。このうち,子ありの核家族世帯の35~44歳女性は120万6455人(最初の表)。前者に占める後者の割合は,17.2%となります。以下の表は,この数値の都道府県ランキングです。


 どうでしょう。左上の上位県では,医療・福祉産業従事者の5人に1人が,子がいる核家族世帯の35~44歳女性です。

 今回の一斉休校で自宅に縛られる可能性が高い人たちですが,県内の医療・福祉従事者の5人に1人がごっそりいなくなったら大変なこと。県内の医療が崩壊し,最悪死人が出る事態にもなるでしょう。上記の表は,この恐れを数値化したものとも読めます。

 私はここ数日,ツイッターでこの種のデータを発信し続けているのですが,これを見てくださった首長さんもいるようです。真偽は定かでないですが。
https://twitter.com/Yauchi/status/1235202670777913346

 栃木県茂木町が一斉休校を取りやめる決断をしたことで注目されていますが,町長さんはその理由を「共働き世帯率が高いこと」と説明しています。きちんとデータを参照したのでしょうね。

 これからやろうとする政策で,困る人がどれほど出てくるか? 自分の経験や感覚だけに依拠するのではなく,データをみてほしいと願います。一斉休校が報じられた時,「共働き世帯のことを全然考えてない」という批判が噴出しましたが,政策を決めた為政者の頭の中には,「父正社員+母主婦」という伝統的家族像しかなかったのでしょう。休校にしても,家にはお母さんがいるから大丈夫と。

 今はネットで調べものをする人が多いでしょうが,このブログが,そういう方々のお役に立てればと思います。

 栃木県茂木町の町長さんのように,自分の市区町村の共働き世帯率を知りたい,という要望もあるかと思います。後ほど,低学年の子がいる年代のママの就業率を市区町村別に出し,そのエクセルファイルをnoteにアップしようと考えています。*アップしました。
https://note.com/tmaita77/n/n95cd79ff93b8