ゴミを有価物に変える「グッドデザイン」な取り組み

雑誌Wedge3月号に掲載された拙稿です。Wedge Infinityにも掲載されました。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22396

 

 ゴミ収集日にプラスチックゴミを分別して出すと、それが原料となって再びプラスチック製品に生まれ変わっていると多くの読者は思われるだろう。スーパーで売られているゴミ袋などに「リサイクル100%」と書かれている商品も多く、コンビニやスーパーのレジ袋有料化も始まった。日本は「リサイクル王国」だと信じている方も少なくないに違いない。

ゴミ袋の原料とは?

 だから、海洋投棄されたプラスチックゴミを魚が食べて深刻な汚染を生んでいるというニュースを聞いても、どこか他人事のような感じを受ける。実際は、日本から大量のプラスチックゴミが発展途上国などに「輸出」され、それが適切に処分されずに、海に捨てられているものも少なくないと言われる。だいぶ減ったものの、財務省の統計によると、2019年に日本は89万8000㌧のプラスチックゴミを輸出しているのだ。

 「実は、リサイクル100%のゴミ袋と言っていますが、多くのゴミ袋の原料は皆さんがイメージするプラスチックゴミではないんです」

 廃棄物マネジメント会社の草分け的な存在であるサティスファクトリー(以下、サティス)の小松武司会長は言う。サティスは1996年に小松さんが創業、飲食店が出すゴミを、毎日検量して適切な業者に適正価格で処理させるなど、ゴミ管理を請け負う事業を始めた。今では「パートナー企業」と呼ぶ取引先は4000社にのぼる。

 小松さんによると、「リサイクル100%」のゴミ袋の多くは、「OG品」と呼ぶプラスチック原料で作られるケースがほとんど。工場などがプラスチック製品を作るために仕入れたプラスチック・ペレットで、使い切れなかったものやペレット製造業者の在庫品などが「リサイクル」されてくる。リサイクルにもかかわらずゴミ袋が透明できれいなのは、「新品」のリサイクル原料を使っているからだ。本当のゴミから作れば、透明にはならない。

 長年、ゴミを扱ってきた小松さんたちは、本当の「ゴミ」からゴミ袋を作れないか、と考えた。企業が出すプラスチックゴミは企業がお金を払って処理しているが、それを「原料」に変えられれば、逆に売ってお金を得ることができるかもしれない。社会にも企業にもメリットがある。ゴミから価値を生み出すことができるのだ。

 プロジェクトが本格的に動き出したのは20年3月。パートナー企業のネットワークを使って、梱包に使った使用済みのストレッチフィルムを集めることにした。工場などからいくつもの段ボール箱を出荷する時に、グルグル巻きにして固定するためのプラスチック資材だ。

 これをプラスチック加工会社に運び、ビニール袋にする。強度を保つには、どうしても「つなぎ」としてOG品などが必要なうえ、不純物が混じって半透明になるので、色剤などを加えると、純粋なゴミ原料は99%ということになる。それでも何とか製品化できた。45㍑から120㍑までいくつかの種類を作った。通常売られているゴミ袋と同じくらいの価格で販売してもコストが見合うことが分かった。

 20年夏には、パートナー企業40社の協力で1カ月の間にストレッチフィルム70㌧を回収、累計では100㌧以上を集めた。これは45㍑ごみ袋411万枚に相当する量だという。

 問題は、それをどう売るか。

 これもパートナー企業のネットワークを活用した。業務用のゴミ袋として企業に買い取ってもらうのだ。多くの企業はCSR(企業の社会的責任)活動に力を入れている。そうした企業に「このゴミ袋に切り替えることで、二酸化炭素18㌔グラムの削減につながります」とアピールしたのだ。企業はCSR報告書にそれを書き、社会や株主に取り組みのひとつとして報告できる。「小さな努力の積み重ねとはいえ、お客様に環境保全に一歩踏み出してもらうきっかけにできる」と小松さんは考えたという。

 小松さんはこのプロジェクトを「FUROSHIKI(ふろしき)」と名付けた。古くからモノを大切にする日本人は、包装や物を持ち運ぶにも、何度も使える風呂敷を活用してきた。そんな日本人の伝統的価値観を思い出してほしいという思いがこもっている。

 このプロジェクトに協力する企業が急速に増えている。そのきっかけは、小松さんの古くからの友人である柴田知栄さんの協力が大きいと小松さんは言う。柴田さんは第一生命保険のトップ・セールスレディ。柴田さんがプロジェクトの意義に共感したのをきっかけに、第一生命が東日本の法人営業社員に、顧客企業にプロジェクトを紹介するよう号令をかけたのだ。第一生命自身、ESG(環境・社会・企業統治)投資に力を入れていた矢先だった。柴田さんは「プロジェクトの背景にある考え方が素晴らしいと思います。最終的には個人一人ひとりに広がっていくことが大切で、そのお手伝いができればと考えました」と語る。

 そんな広がりもあって、昨年10月、このFUROSHIKIが「グッドデザイン賞」に選ばれた。この賞は商品の色形だけでなく、事業の仕組みなども対象にしており、それに選ばれたのだ。審査委員は「自国のゴミは、自国で処理し、循環させることができる社会に向けて、FUROSHIKIの取り組みは非常に意義深いものである」と評価していた。

ゴミを価値に変える

 早くから独立して起業することを考えていた小松さんは、大学卒業後数年の会社員経験を経て、コーヒー・チェーン店のフランチャイズ加盟店経営を始めた。途中、釜飯チェーン店も出店したが失敗して撤退。それが「ゴミ」の世界に飛び込むきっかけになった。

 「考えたら自分自身、釜飯を年に1回も食べていなかったんです。事業をやるなら、電気、ガス、水道など毎日使うものだろうと。考えた末にゴミは毎日出るな、これだ、と思ったのです」と小松さん。

 飲食店をやっていた関係で、そうしたお店が出す食物残渣や容器ゴミなどを扱うことからスタートした。毎日、ゴミの量を測って、量に基づいて処分業者に委託する。年間の処分費が年間6000万円から300万円になった団体もあり、昔からの慣行で金額を払っていたところが多かったのだという。

 今、企業にとって、自身が出すゴミの管理は大きな課題になっている。廃棄物管理のアドバイスを通じて、環境問題に少しでも貢献していくのが、サティスファクトリーの狙いだ。

 担当の斉藤昭徳常務は「静脈物流で扱う対象物は『商品』ではなく『不要物』なので、その運用の仕方によっては『廃棄物』になることもあれば『有価物』になることもあります」と言う。例えば、ストレッチフィルム以外でも、プラスチックのパレットや、折りたたみ式のコンテナなどを回収し、ペレットにして商社に販売している。これを違った「成果物」に変えて排出した企業に戻すことができれば、「本当の循環型のサイクルができます」と将来を見据える。ゴミを価値を持つものに変えると同時に、環境負荷も下げることができる。小松さんたちの取り組みは今後も広がっていきそうだ。