イランの核開発が国際問題になっています。そもそも、なぜイランは核開発をするのでしょう。本稿では、その心理的な背景を探ります。また、ウクライナ情勢を見て、イランの指導層はなにを考えているのでしょうか。そして日本はイランという国と、どう向き合ってきたのでしょうか。そうした疑問に答える前に、まず問題の経緯と現状を見ておきましょう。


交渉決裂の危機


2002年、イランが密かに大規模な核開発を行っている事実が暴露されました。イランは平和利用であると主張しました。だが欧米各国やイスラエルなどは軍事転用の疑惑を抱き、各国がイランに経済制裁を課すなどのきびしい対立の場面がありました。しかしながら2015年、JCPOA(包括的行動計画)と呼ばれる合意が成立します。これは「イラン核合意」(以下、核合意)として知られています。イランは核開発への大幅な制限やきびしい査察の受け入れに同意し、米国など安保理常任理事国5カ国とドイツは、経済制裁の撤廃を約しました。


ところが18年に米国の共和党のドナルド・トランプ大統領が一方的に合意から離脱し、イランに対する制裁を再開し強化します。やがてイランも合意で定められている制限を超えたウラン濃縮を始めるなど対抗措置をとるようになります。


イランとの緊張関係を遠景として争われた20年の米国大統領選挙では、民主党のジョー・バイデンがトランプ外交を批判し、核合意への復帰を訴え、勝利を収めます。そしてバイデン政権下で核合意への復帰のための交渉が始まりました。交渉に目鼻がつき始めた段階の昨年6月、イランで大統領選挙が行われ、核合意に批判的だったムハマッド・ライーシーが当選します。ライーシー大統領は時間をかけて問題の再検討を行い、ようやく11月になって交渉が再開されました。


交渉は難航しますが、現段階で、実質的な面では合意が成立していると言われます。残っているのは、いくつかのポイントのみと報道されています。その一つは、アメリカによるイラン革命防衛隊のテロ組織指定です。核合意への復帰の条件としてイランは、この指定の撤廃を求めています。現段階では、バイデン政権はこれを拒否しています。この間にもイランは濃縮ウランの濃度と保有量を増やしており、それが核爆弾の製造に必要なレベルに近づいています。交渉は、決裂の危機に直面しています。


なぜ核開発なのか?──イランの説明


そもそもイランは、なぜ核開発を始めたのでしょうか。イランは、どう説明しているのでしょうか。


石油大国として知られるイランの石油生産は前世紀の初頭から始まります。もう1世紀以上もほっているわけですから、現在は石油資源の枯渇が懸念されています。そうであるならば、現在は国内の発電用に使われている石油を原子力発電で置き換え、貴重な石油は少しでも多く輸出に回したい……。これが、経済的な説明です。


平和利用に関しては、イラン国内にコンセンサスがあります。「イランには『核の平和利用』から恩恵を受ける権利がある」との認識は、体制への支持者の間では無論のこと、反体制派の間でも広く共有されています。欧米や中国に、そして核兵器を保有していない日本にウランを濃縮する権利があるのなら、イランにもその権利があるはずだ、そのための技術の獲得は当然の権利である、との認識です。イラン人の多くにとってウラン濃縮を含む核技術は、先進技術の象徴的な存在です。いつまでも発展途上に留まってザクロ・ジュースの濃縮ばかりやっているわけにはゆかないとの考え方です。


>>次回につづく


※『まなぶ』(2022年7月号)20~23ページに掲載された拙稿です。出版元の許諾を得てアップします。