ベトナム人労働者「激増」が示す、日本の解決できない「労働力不足」の現実 外国人労働者増加傾向は続く

現代ビジネスに2月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80555

「ビジネス上必要な人材等」

新型コロナウイルスの蔓延による経済停滞が続く中で、外国人労働者の数は減っているかと思ったら、増加が続いていることが分かった。

厚生労働省がまとめた2020年10月末時点の「外国人雇用状況」によると、外国人労働者の数は172万人と過去最高を更新した。1年前に比べて4%の増加で、2015年以降、2ケタの増加が続いてきたのと比べると、さすがにブレーキがかかっている。

日本国内での非正規雇用が大きく減る一方で、外国人労働者がむしろ増えているのは、「安い労働力」を求める企業が多いことに加え、いわゆる「3K職種」など日本人が忌避する業種で人手不足が続いていることがある。

日本で働く外国人と言えば中国人が圧倒的に多いというイメージに違いない。だが、この1年で大きな変動が起きた。中国人は0.3%増とほぼ横ばいだったにもかかわらず、ベトナム人が10.6%増と激増。

ついに中国人労働者の41万9431人を上回り、ベトナム人が44万3998人と最も多くなったのだ。ちなみにネパール人も総数は9万9628人と多くはないものの、1年で8.6%も増えた。

なぜか。新型コロナで入国を厳しく制限する中で、1回目の緊急事態宣言が明けた2020年6月から「ビジネス上必要な人材等の出入国について例外的な枠を設置」した。

入国後の14日間の自宅等待機期間中も、行動範囲を限定した形でビジネス活動が可能になるよう行動制限が一部緩和される「ビジネストラック」と呼ばれる枠と、自宅などでの14日間の待機は維持する「レジデンストラック」が設けれた。そのうえで、7月にはタイと並んでベトナムが真っ先にこの対象国に指定されたのだ。

また、10月1日からは、ビジネス上必要な人材に加えて、留学や家族滞在といった在留資格を得た外国人を対象に加え、全ての国・地域からの新規入国を許可した。その際に、「防疫措置を確約できる受入企業・団体がいること」が条件とされたが、これもベトナム人が急増する一因になった。

というのも多くのベトナム人の場合、ベトナムの「送り出し業者」と提携した「受入団体」が関与する事実上の出稼ぎ労働者がほとんどなので、その条件をクリア、ベトナム人の入国が大きく増えることになった。

政府の政策では「GoToトラベル」にばかり世の中の関心が向いたが、その間に着々と外国人労働者を受け入れる門戸が開けられていたのである。

その3割がベトナム人

さすがにこうした措置は1月に緊急事態宣言が再度発出された後、「一時停止」されているが、それでも統計数値の10月末時点以降も多くのベトナム人が入国している。

日本政府観光局(JINTO)の推計によると、11月に1万4700人、12月に1万5700人、1月にも2万人にのぼった。3カ月で何と5万人である。この3カ月間の入国者の総数は16万1900人だったので、その3割をベトナム人が占めたことになる。

ベトナムからは日本語学校などへの留学生も多いが、外国人労働者問題に詳しいジャーナリストの出井康博氏は「本当の目的は日本で働くための偽装留学生がかなりの割合にのぼる」とみる。また日本にやってくる前に送り出し業者などに手数料を払うために多額の借金を抱えてくる労働者も多いという。

留学生は週に28時間までアルバイトをすることができる。夏休みなどは週40時間まで働ける。もっとも、実際には複数のアルバイトを掛け持ちして、届出をせずに働いているケースも多いと見られる。

「偽装留学生」は大きな問題になったこともあり、2020年10月末時点で留学生などの労働者(「資格外活動」という分類)は1年前に比べて0.7%減っている。

一方で大きく増えたのが、「専門的・技術的分野の在留資格」で働く外国人だ。1年で9.3%増えた。2019年4月から「特定技能1号、2号」という在留資格が新しく設けられ、労働者として日本で働ける枠が広がったためだ。

また、技能実習生も4.8%増え、40万人を突破した。途上国などへの技能移転をする国際協力の一環として実習生を受け入れるというのが建前だが、実際には人手が足らない農業や漁業の現場で実習生として働いている外国人が多い。

コロナ下でも実は日本は人手不足

ではなぜ、新型コロナで働き口が減っていそうなのに、外国人労働者は増え続けているのか。外国人労働者がどんな業種で働いているかを見るとその答えが見えてくる。

私たちがよく目にする「飲食店・宿泊業」で働く外国人は1年の間に1.8%減とわずかながら減った。また、製造業も0.3%減である。一方、「建設業」が19.0%増、「医療・福祉」が26.8%増と大きく増えた。

建設業の現場は典型的な「3K(きつい・危険・汚い)」職場で、なかなか日本人の若者は働かない。現場の日本人の高齢化も急速に進んでおり、工事を進めるにはもはや外国人労働者なしには成り立たない、と言われる。

また、急速に需要が増えている介護現場などでも人手が足らず、外国人が戦力として期待されている。「医療・福祉」で働く外国人はまだ4万3446人だが、2年で1.7倍になった。今後も日本の高齢人口は増え続ける見込みで、日本人だけでは介護現場の手が足らないのは明らか。外国人労働者へのニーズは今後も高まるのは確実な情勢だ。

緊急事態宣言が解除されれば、経済活動が本格的に再開されるかどうかを待たずに、外国人労働者の入国が一気に増えることになるだろう。