もう一つ、このピサールの交友関係に言及しておきましょう。ピサールはレナード・バーンスタインというウエストサイド物語を書いた作曲家と非常に親しかったのです。バーンスタインが交響曲をいくつか書いていますが「3番」というのがあります。「カディッシュ」というユダヤ教の挽歌というのかな。亡くなった方を悼む曲があります。それは朗読と音楽を一緒にやるという曲なのですが、それの「朗読部分をお前、書いてくれ」と、ピサールはバーンスタインに頼まれました。ただ「バーンスタインの素晴らしい音楽に合うような文は、私には書けない、私は、もともと英語のネイティブではないから」と、いったんは断ります。ですがバーンスタインが亡くなった後、気持ちが変わって、「カディッシュ」に祈りの言葉を書いています。ただその祈りの言葉が非常に厳しくて、神様を叱りつけています。アウシュヴィッツというこの世の地獄があって、ダンテの地獄よりも酷いことが起こっていて、罪もない人たちが焼かれていった時、貴方はどこにいたんだ、貴方はなぜ助けに来なかったんだ。私は許さない、貴方を。そう神様を??りつける。最後は祈るのですが、凄まじい詩を書かれています。そういう義理のお父さんの話を子どもの時にずっと聞きながら育ったとブリンケンは言っています。私もユダヤ人の本をいっぱい読んでいるから、アウシュヴィッツに行くと、何か懐かしいような不思議な気持ちがしました。もう、ここは来たことがある。良く知っているという。不思議な感覚がしました。


さてブリンケンはパリで教育を受けていて、パリ駐在だった方はご存知かと思いますが、パリにエコール・ジェニンヌ・マヌエルという英仏のバイリンガルで教えている学校があります。非常に水準が高い。フランスでもトップクラスの高校です。そこを卒業しています。ここはやはりフランスのエリートが子どもを入れる学校で、この間裁判で有罪が決まった、サルコジ前大統領も子どもをここに入れていると言われています。アントニー・ブリンケンの背景です。


アントニー・ブリンケンの下に来る国務副長官に任命されたのが、ウェンディ・シャーマンという女性です。この方は、オバマ政権の時にイラン交渉の責任者だった方です。今回バイデンがイラン交渉担当に任命したのがロバート・マレーという男です。この男は何をしていた人かというとウェンディ・シャーマンがイラン交渉担当の責任者だった時に補佐官でした。


ロバート・マレーという人もパリ育ちです。そして、アントニー・ブリンケンと同じ高校の同窓生です。そのころからの友人です。マレーは、その後はイェール大学そしてハーバード・ロー・スクールつまり法科大学院に進んでいます。ハーバード・ロー・スクールの、ロバート・マレーの同級生というのが、ひょっとしたら皆さんも知っているかな?この集合写真の真ん中に座っている人物です。バラク・オバマです。バラク・オバマは、黒人として初めてハーバードに入った人ではありません。ただ、ハーバード・ロー・スクールが出している『ハーバード・ロー・レビュー』という『ハーバード法学雑誌』とでも呼びましょうか。法学業界では一番権威があるとされているそうですが、その最初の黒人の編集委員長になったことで、有名です。マレーは、バラク・オバマの同級生ということになります。


それではこのハーバード・ロー・レビューの編集をオバマの前にやっていた世代にはどういう人がいたのかというと、さっきいた人物です。今のバイデンの補佐官のロン・クレインです。だから皆、同級生だとか、仲間内なんですよね。学校の時からという感じですね。


ちょっとこの写真を見てほしいのですが、これはイランとの核交渉の写真です。もちろん代表はケリー国務長官ですが、実質上の責任者はウェンディ・シャーマンです。補佐官のロバート・マレーがここに座っていますよね。ここにいるのはモニーズさんという、この人はスタンフォード、MIT系の理科系の人で、エネルギー庁長官です。要するに核交渉ですから、ウラン濃縮が何%とか、何グラムとか、そういうテクニカルなことを詰めるために座っていたんですね。イラン側も含めてみると、イラン側は今の外相のザリフさん、同じ人ですよね。一人置いて、アラーグチーさんという日本大使をやっていた人物です。ザリフさんをずっと補佐して、今もやっている人ですよね。真ん中にいるのが、サーレヒさんというイランの原子力庁の長官です。この人がイラン側のウラン濃縮何%とか、何グラムとかの話をするのですね。彼はMIT、マサチューセッツ工科大学の卒業生で、アメリカのモニーズさんは今マサチューセッツ工科大学の先生ですから、そういうところで繋がっています。


こうした事実を踏まえると、日本は国策的に、なるべくハーバードとかイェールとか、MITに人を遣る、同級生をつくっておくというのがいいのかなと思ってみたりします。もちろんカリフォルニア大学はダメだとか、他の州立大学はダメだとか言うつもりは全然ないのですが、でも世の中は顔の繋がりで動くことはありますから、特に国費で留学生を出す時にはそんなことを考える必要があるのではないかと実は思ってみたりもするわけです。


人事の話を続けますと、実はバイデン政権には国務長官がもう一人いるんですよね。ケリーさんが元国務長官で、今度は国務長官ではなくて、環境問題特使として入っています。しかし、会議を開く時にイランの話をしたら、ケリーさんは当然発言しますよね。だからそういう意味ではやはり、バイデン外交チームには、オバマ政権の同窓会的な雰囲気が濃く漂っています。このケリーさんが2015年の、あとでお話ししますが、イランとの核合意をまとめた時のアメリカの代表者ですよね。この時は自分の足で立っていますけれど、実際は足を怪我なさっていて、こんな感じだったのですよね(写真を示す)。イラン人と交渉すると骨が折れるからか、ということではなくて、同長官は自転車が趣味です。最後ジュネーブで交渉したので、美しい風景に誘われてサイクリングへ出ます。そして、トラックと力比べをしたというだけのことなのです。


このケリーさん、私のお話を何回も聞かれた方は聞きなれたと思いますが。もう一回だけ、繰り返しましょう。ケリーさんにはお嬢さんがおられて、お医者さんなのですね。お嬢さんの結婚相手もお医者さんで、ナーヘッドさんという名前です。不思議な名前ですよね。ナーヘッドって。実はイラン系の名前です。ナーヘッド自身はアメリカ生まれアメリカ育ちの2世ですが、お父さんもお母さんもイランから移民してきた医者です。だからケリー家はそういう意味ではイランに対する憎しみとかはない家系です。これはアメリカ人としては例外的です。というのはイラン革命期にテヘランのアメリカ大使館員が人質にされた事件以来、アメリカ人の対イラン感情は非常に悪いからです。


バイデン政権の外交チームを構成しているのは、どう見たってオバマ政権同窓会ですよ。オバマの外交問題の補佐官だったライスさんは、今度は内政問題の重要なポストに就いていますから。


>>次回につづく