大前研一「ニュースの視点」Blog

KON837「香港情勢/米中関係/日中関係~今の中国には何を言っても無駄」

2020年7月13日 日中関係 米中関係 香港情勢

本文の内容
  • 香港情勢 国家安全維持法が可決、成立
  • 米中関係 香港自治法案を全会一致で可決
  • 日中関係 習近平国家主席の国賓来日中止求める決議案

香港返還50年の約束など、今の中国には何を言っても無駄


中国の全人代常務委員会で先月30日、香港国家安全維持法が全会一致で可決・成立しました。

香港で国家分裂や政権転覆、テロ活動などを行うことを犯罪とし、最高で終身刑を科すもの。

香港政府は同日夜、これを施行。

香港警察はこれまでに同法への違反容疑で10人を逮捕し、また、違法な集会や武器の所持など、この法律以外の容疑も含め、約370人を逮捕したとのことです。

習近平国家主席の対応を見ていると、相変わらず許容度が小さい人物だなと感じます。

長い中国の歴史の中でも、習近平国家主席は「とりあえず無理にでも押さえつける」というタイプの政治家で、今回の件でもそれがよく表れています。

一方でその反対のタイプだったのが、曖昧模糊とした表現で他人を煙にまくのが非常に上手だった鄧小平元国家主席です。

鄧小平氏は、自分の本当に言いたいことを隠しながら、相手を納得させてしまうような話し方をするのが天才的に上手でした。

例えば、中国の国内で貧富の差が出てくるや否や「豊かになる人がいても、後からみんなその人を見て豊かになっていけるのだ」などと言って、批判される方向へ議論が流れないように仕向けました。

もちろん、その後の中国を見れば、貧しかった国民の大半が豊かになっていないのは明らかです。

そして、こうした煙に巻く手法の最たる例が、「一国二制度」でしょう。

英国のサッチャー元首相に対しても、この言葉を作ることで見事に立ち回ったとも言えます。

今回の国家安全維持法の成立は、2年前の香港返還20周年記念の時に既に予告されていたことです。

もともと香港は、中国から見ると仰ぎ見るような繁栄の象徴でした。

当時の香港は世界の中でも光り輝く金融首都という印象でした。

中国の本音で言えば、上海にそのような立場を確立してほしかったのでしょうが、それは難しい状況でした。

しかし、香港に近い深センに経済的な余力が及ぶようになり、今では深センのGDPは香港を上回るほどに成長しています。

それを考えれば、香港はきちんと歴史的な役割を果たし終えた、といっても良いのかもしれません。

もちろん、まだ香港返還から50年は経過していませんから、今の時点で国家安全維持法を成立させるのはイカサマです。

最後の香港総督であるクリストファー・パッテン氏は中国政府を批判していますが、すでにたいして影響力を持っているわけでもなく、負け犬の遠吠えでしょう。

香港返還から「50年の約束」はまだ27年残っていますが、今の中国にはもう何を言っても無駄でしょう。

今回の法案成立によって、今後香港では「民主化を叫ぶ方法」が非常に難しくなります。

香港独立を掲げていたら、それだけでも「国家分裂」「政権転覆」を目論んでいるということで即逮捕されてしまうわけですから、極めて厳しいと思います。

もはや、一切言葉には出さず、心で思いながら歩くしかないといった状況です。

また、外国勢力との結託についても禁止されているので、日本から香港を応援して独立を支援するような発言をすることもできません。

下手をすると、中国旅行した時に逮捕される可能性もあります。




中国に対して、再び取引を持ちかける可能性があるトランプ大統領


米国議会上院本会議は2日、香港の自治の侵害に関わった中国共産党員や金融機関への制裁を可能にする香港自治法案を全会一致で可決しました。

この法案は下院でも1日に全会一致で可決しており、今後トランプ大統領が署名に応じず拒否権を行使しても、上下両院でそれぞれ3分の2の賛成多数で再び可決すれば、法案は成立する見通しです。

トランプ大統領は、前々から言っているように、ディールメーカーですから、これもひとつのディール(取引)として使ってくる可能性はあります。

すなわち、習近平国家主席に「米国からもっと農産物を買う」ように求め、そのかわりに自分が米国内の法案採用に同意しない、という条件を突きつけるということです。

しかし、もしそのような取引を裏で行っていることがばれてしまうと、今でもほぼ死に体に近いトランプ大統領の大統領選は間違いなく終了です。

すでにボルトン氏の書籍では、再選のためには農産物を中国が買うことが必要であり、習近平国家主席に助けを求めた、とも書かれています。

非常にみっともないことだと私は思います。

おそらく中国側は、トランプ大統領の取引には応じないでしょう。

率直に言って、「米国の両院で通過した法案が、中国にとってどんな意味があるのか?」と問い返してしまえばそれまでです。

米国が、中国に関連した企業や政治家の渡米を制限するとか、米国の銀行について利用制限するという可能性はありますが、中国もそれくらいのことは既に覚悟しているはずだと思います。

中国が想定していないようなことを、米国が何か見つけられれば話は別ですが、おそらくすべて中国は計算しているでしょう。




習近平国家主席の国賓扱いの来日中止など、何もする必要がない


自民党は3日、中国の習近平国家主席の国賓としての来日中止を求める決議案をまとめました。

香港での国家安全維持法にもとづき大量の逮捕者が出たことについて、「傍観することはできない。強く非難する」と表明したものですが、これに対して中国外務省は「間違った議論」だとして日本側に抗議したことを明らかにしました。

もともと新型コロナウイルス感染拡大の影響があって、中国側が国賓として来日することは延期になっていました。

あえて波風を立てるようなことは言わず、そのままにしておけばよかったのです。

中国側が国賓として来日したとしても、日本側も天皇陛下がご参加される行事は軒並み中止となっており、その意味から考えても放って置くほうが得策でした。

また、今回まとめられた決議案は、これから自民党本部に正式に申し込みをする手続きになりますが、それを受け取る自民党幹事長は二階氏です。

言わずと知れた親中派で、習近平国家主席とも何回も会合したことがあり、中国に財界人を1000人単位で連れていったことがある人物です。

どう考えても、二階幹事長がこの決議案を承認するとは思えません。

それよりも、こうした騒動が起こったときに、中国はなし崩し的にさまざまなことを仕掛けてくるので、そちらに注意を向けることが重要だと私は感じます。

尖閣諸島の接続水域に入ってくる中国船の頻度と数が急増しています。

中国は南沙諸島において、どさくさに紛れてフィリピン領域内に軍用空港を建設し、完成させてしまったこともある国です。

日本もあらためて、尖閣諸島へ注意を向けるべきタイミングかもしれません。




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※この記事は7月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は香港情勢のニュースを大前が解説しました。

大前は「香港は歴史的な役割を果たし終えた、といっても良いのかもしれない」と述べています。

ニュースひとつとっても、それには様々な捉え方があり、正解はありません。

報じられた内容に対して事実と意見を分けて整理したうえで、

「他にわかることはないか」
「自分はどう思うか」

思考を深めていくことが大切です。


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