3兆円投入のツケ「東京五輪の失敗」で大不況がやってくる  1964年五輪と同じ轍を踏むことに

プレジデントオンラインに2月7日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/32810

SARS終息宣言は発生から8カ月後だった

新型コロナウイルスへの感染者が日本国内でも広がっている。潜伏期間とされる2週間以内に中国渡航したことがない国内在住の人の感染が確認されたほか、発症していない人からも感染が広がっている模様で、日本の「水際対策」では十分に防御できていないとの見方も出ている。死亡率は高くないとされているが、中国・湖北省武漢市では死者が相次いでおり、不安が高まっている。

そんな中で、米国は保健福祉省が緊急事態を宣言。直近で中国に渡航歴のある外国人の入国を停止したほか、英国は中国に滞在する自国民に退避勧告を行った。

焦点はこの感染拡大が、いつ終息するかだ。

日本は今年夏に東京オリンピックパラリンピックを控えており、7月末には開会式を迎える。SARS重症急性呼吸器症候群)が集団発生した際は、2002年11月16日に中国で始まり、WHO(世界保健機構)が終息宣言を出したのは2003年7月5日だった。仮に今回の新型コロナウイルス蔓延まんえんの終息宣言が7月までずれ込むと、オリンピックを目当てに世界からやってくる観光客の数に大きな影響を及ぼす可能性も出てくる。

ずば抜けて多い「中国人旅行者の買い物代」

世界から日本にやってきた訪日旅行客は、日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2019年に3188万人と過去最多を記録した。政府はオリンピックがある2020年に4000万人の目標を掲げてきたが、その達成に黄色信号が灯っている。2018年に初めて3000万人を超えた時には、2020年の4000万人到達は十分にあり得る数字だったが、日韓関係の冷え込みで韓国からの訪日客が激減、2019年は前年比2.2%増というわずかな伸びにとどまった。

そんな中で、大きく伸びたのが、中国からの訪日客。前の年よりも14.5%多い959万人に達した。何と全体の30%が中国からの観光客・ビジネス客だったのだ。

彼らが日本国内で落としたお金も大きい。

観光庁の「訪日外国人消費動向調査(速報)」によると、2019年に訪日外国人客が日本国内で消費した金額は、4兆8113億円。前の年に比べて6.5%増えた。それを支えたのが中国からの旅行客の増加だった。推計によると、前の年より14.7%多い1兆7718億円にのぼったとみられている。外国人の消費額全体の37%に達する。

「爆買い」に象徴されるように、中国からの旅行者が「買い物」に使う金額は他の国々からの旅行者に比べてひときわ多い。ひとり当たりの消費額は21万2981円と、全体の平均15万8458円を大きく上回る。消費額が最も多いのはオーストラリアからの旅行客の24万9128円だが、彼らが使った「買い物代」は3万1714円にすぎない。モノの消費を担っているのは中国人旅行者だということが分かる。

「世界一コンパクトな大会」のはずが巨額の支出に…

そんな最中に起きた新型ウイルスの蔓延である。中国からの来日客が減少し、日本の百貨店での春節期間(1月24日から30日)の免税売上高は前年比2ケタのマイナスになったと発表されている。

当然、中国以外の地域、特に欧米からの観光客が中国や日本などアジアへの旅行を忌避する可能性は高まっており、今後も日本経済への打撃は深刻だ。特にオリンピックへの来場者が減れば、大会前後の関連消費が期待外れに終わる可能性が出てくる。

オリンピックが期待通りの経済効果をもたらさなかった場合、日本経済は大会後にそのツケを払うことになる。

誘致した際には「世界一コンパクトな大会」にするとしていたが、関連予算は大幅に膨らんでいる。会計検査院が昨年12月4日に公表した集計によると、オリンピック・パラリンピックの関連事業に対する国の支出は、すでに約1兆600億円に達している。政府と大会組織委員会が「国の負担分」や「関係予算」として公表してきた額は2880億円だが、すでにそれ以外に7720億円が使われたとしているのだ。

国の支出以外にも、東京都が道路整備なども含め約1兆4100億円、組織委員会が約6000億円を支出することになっており、検査院の検査結果を加えるとオリンピックの関連支出は3兆円を超す巨額にのぼることが明らかになった。

組織委員会の支出を支える「スポンサー」企業

大会組織委員会が支出する6000億円については、スポンサー料収入が最大の「財源」になっている。

4段階あるスポンサーのカテゴリーのうち最上位の「ワールドワイドオリンピックパートナー」は国際オリンピック委員会IOC)と直接契約しており、1業種1社に限られている。契約料は高額でトヨタ自動車は10年で2000億円の契約金を支払ったと言われている。このカテゴリーには14社が加わっており、日本企業では、トヨタと並んでブリヂストンパナソニックが名を連ねている。

次のカテゴリーは、日本オリンピック委員会JOC)と契約し、日本国内でのみオリンピックのスポンサーと名乗ることができる「東京2020オリンピックゴールドパートナー」。これには国内企業15社が名を連ねる。スポンサー料は4年契約で100億円程度とみられている。通常、オリンピックの企業スポンサーは「1業種1社」が常識だが、今回の東京オリンピックでは、国内スポンサーに限って「1業種1社」の枠組みを外した。みずほ銀行三井住友銀行NEC富士通などの同業種が並んでスポンサーになった。横並び意識の強い日本ならではの「商法」だった。

前回の東京オリンピック後に訪れた「40年不況」

組織委員会の6300億円の収入予算のうち、チケットの売り上げが900億円、ライセンス収入が140億円、IOC負担金が850億円などとなっている。IOCの負担金の原資は、IOCに直接入るスポンサーからの収入やテレビ放映権料だ。IOCは東京大会で過去最高の3倍に当たる30億ドル(約3300億円)超のスポンサー料を日本国内の企業から集めたと公表している。IOCとしてはビジネスとして成功が約束された大会ということだろう。

オリンピックはかつて国の威信をかけて行う国際大会という色彩が強く、巨額の国家予算が投じられた。その結果、大会後に深刻な不況に見舞われるケースが頻発した。前回の1964年(昭和39年)の東京オリンピックでも、その後「40年不況」と呼ばれる景気悪化に見舞われ、山一証券は事実上破綻して日銀特融を受け、山陽特殊製鋼などが倒産した。

過剰な投資を行えば、そのツケが回ってくるのは当然である。その反省から昨今のオリンピックはお金をかけずにコンパクトに済ませるようになった。日本はその国際的な流れを無視し、巨額の資金をつぎ込んでしまったわけだ。

そうでなくてもその反動が大会後の日本を襲うことが懸念されるところに、新型コロナウイルスの蔓延である。消費増税もあり国内消費が冷え込んでいる中で、オリンピック関連のインバウンド消費に期待が集まっていたが、万が一そのアテが外れることになった場合、不況に直面した前回東京大会の轍を踏むことになりかねない。