出生数“80万人割れ”目前…!「止まらない少子化」で危機に直面する大学経営  補助金を当てにしているだけでは

現代ビジネスに5月28日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/95645

14年連続減少

厚生労働省が発表した、2021年度の人口動態統計(速報値)によると、出生数が前の年度に比べて1.3%減り、84万2131人となった。減少は14年連続で過去最少を更新した。

歴代内閣が「少子化対策」を掲げ続けてきたものの、少子化には一向に歯止めがかかっていない。それどころか、ここ数年の減少は、まさに「人口壊滅」を予感させるほどのペースである。毎回、速報値はその後発表される確定地に比べて数万人多い傾向があり、2022年度の確定値では80万人を切る可能性も出てきた。

昨年10月時点の年齢別の人口を見ると、今、まさに働き盛りの48歳の人たちは200万人いる。それが37歳となると150万人を切り、22歳になると124万人しかいない。大学を卒業して社会に出る年齢の人たちは、四半世紀で40%近く減ったことになる。日本経済は低迷していると言われながらも、失業率が上がらなかったのは、この少子化の効果が大きかったと言える。

だが、ここから先は、状況はさらに深刻化する。今、大学入学に相当する18歳の人口は113万人。卒業年齢の人と比べてわずか4年間で9%も減っているのだ。今後、日本での人手不足は一気に深刻の度合いを増すことになる。人を採用したくても採用できない、という事態に直面することになるのだ。

海外から外国人労働者を受け入れれば良いではないか、という人もいるだろう。だが、足下で進む猛烈な円安の結果、日本円建てで給与をもらってもまったく妙味がなくなりつつある。円安で日本を旅行すれば、何でも激安に感じる外国人にとって、安い給料の日本は働く場ではなくなっていく。多少給与が上げても、外国人労働者が喜んでやってくるという時代は完全に幕を閉じた。

出生数減少直撃産業

そんな激烈な人口減少の中で、最も、影響を受ける産業のひとつが大学である。日本経済新聞が、現状でも大学の半数が赤字だと1面トップで報じていたが、大学の経営が危機に直面するのはむしろこれから。10年後に大学入学年齢となる現在の8歳の人口は102万人しかいない。さらにその後80万人へ向けて減り続けるのだ。

何しろ、マーケットの縮小がこれほど「確定」している業界は珍しい。しかも文部科学省によって「定員」が縛られているので、学生を多く集めて収入を増やすことができない仕組みになっている。私立大学でも売り上げを増やすための自由競争が認められていないのだ。

人口の激減がはっきりしている中で、文部科学省が大学をどうしようとしているのか不明だ。自由競争ならば、学生を集められない大学は経営破綻するか、他の法人に買われ、合従連衡が進む。それを役所が「計画的」に進めようとしても難しいのは、金融庁地方銀行がこの20年やってきたことを見ても一目瞭然だろう。かとって、補助金を増やし続けて、少子化の中で大学経営を国が支え続けることにも無理がある。

大学が収入を増やすには、減り続ける18歳の日本国民だけを相手にしているわけにはいかない。多くの大学がアジア諸国など海外からの留学生を増やすことに力を入れてきたのはこのためだが、この戦法で学生を集められるのは、国際的に知名度の高い一部の有名大学か、極めて特長的な教育をしていると評判を確立した大学くらいだろう。

逃げ道はどこにもない

もうひとつ、全国の大学が口をそろえるのが「リカレント教育」だ。大学を卒業した社会人などの再教育事業に打って出て、そこで収入を増やそうというわけだ。

だがこれも簡単ではない。社会人を対象にした大学院の設置はもはやピークを過ぎた感がある。また、社会人教育のマーケットには、大学だけでなく、予備校や学習塾などの教育企業や、メディア関連企業なども狙を定めている。文科省に縛られない民間会社の方が新しいサービスの導入は容易で、物事を決めるのに時間がかかる大学は不利だ。

なにせ、予備校や学習塾などは、少子化の洗礼を大学よりも5~10年早く受ける。学習塾は合従連衡を進める一方で、対象の低年齢化を大幅に進めてきた。

だが、それも限界で、今後、小学生年代の子どもたちの減少は猛烈な勢いで進む。当然、今は加熱している私立小学校・中学校の受験競争も一気に沈静化してくるだろう。人数が減る中で経営を維持しようとすれば、学費を引き上げていく他ないが、そうなると私立の小中学校に通えるのは一部の経済的に恵まれた子女だけという時代に戻ってしまう。

また、そうした裕福な家庭の子女たちの多くが、日本の大学ではなく、欧米の一流大学への進学を目指すようになっている。日本の大学を出て、日本企業に就職しても競争が激しくなる世界の中で幸せな人生を送れないと感じ始めている。日本の大学はそうした若者たちの意識変化にもついていけていない。

対象年齢が120万人から100万人、そして80万人へと減っていくことが確定してい厳しい事業環境の中で、私立大学が何に活路を見出し、存続していくのか。文科省の指導に唯々諾々と従って、国からの補助金を当てにしているだけでは、生き残れないことだけははっきりしている。