ついに日本は「危険な賭け」に出た…コロナ自粛“部分解禁”のリスク  これで感染爆発なら本当に経済破綻だ

現代ビジネスに5月7日に掲載された拙稿です。是非、ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72403

なし崩しの部分解禁

政府は5月4日、緊急事態宣言を5月31日まで延長することを決めた。対象は全都道府県だが、重点的に対策を求める13の「特定警戒都道府県」以外の34県については一定の感染防止策を前提に、社会・経済活動の再開を一部容認した。

これを受けて宮城県村井嘉浩知事は5月5日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした休業要請はゴールデンウィーク明けの5月7日以降は継続しないと発表した。一方で県立学校の急行期間は5月31日まで延長しており、経済優先の決断となった。村井知事は「経済が疲弊している。現実的な対応も必要と判断した」と述べた。

青森県も飲食店や商業施設を対象にしていた休業要請を5月6日で終了すると発表した。また、不要不急の外出自粛についても要請を取りやめる。 

こうした動きは、首都圏周辺にも及んでいる。

栃木県は接待を伴う飲食店、スポーツジムなどは除く大部分の業種で営業再開を認める方針で、飲食店にアルコール類の提供は午後7時までとしてきた要請も撤廃する。

群馬県は、外出自粛や営業自粛などの要請は5月31日まで継続するとする一方で、これまで営業自粛要請の対象となっていたホテルや旅館のほか、ゴルフ場などの運動施設に関しては対象から外すことを決めた。

「自粛」自殺起きる

政府部内にはここで自粛を緩めれば感染者が再び急増して感染爆発が起きかけないとする意見があった一方で、自粛によって経済が凍りついている状況が続けば中小零細事業者の破綻が相次ぎ、「コロナで死ななくても経済的に死ぬ人が出てくる」といった危機感が高まっていた。

緊急事態宣言の扱いを検討していた最中、4月30日の夜に東京・練馬区とんかつ店で店主が焼死したという報道が伝わると政府内にも衝撃が走った、という。店は4月13日から休業しており、先行きへの不安を店主が周囲に漏らしていたと伝えられたことから、休業補償など対応の遅さを指摘する声が一気に上がるだろうという見方が広がった。

実際、安倍晋三内閣への痛烈な批判を繰り広げていた元文部科学事務次官前川喜平氏が5月2日の夜にツイッターを投稿。「これは人災だ」とし、「安心して休業できる補償があれば、彼は死ななかったろう。アベ失政のために何人死ぬことだろう」と痛烈に批判した。

結局、官邸は緊急事態宣言は全都道府県を対象に継続するものの、「特定警戒都道府県」以外の34県には自粛の緩和を認めるという「折衷案」を選択した。

休業要請を続けるには休業補償が不可欠だが、都道府県によって財政力の違いが大きく、補償する財源が乏しいところもある。かといって全都道府県の休業補償を国が行うという決断もできずにいる。結局は都道府県の知事に判断を丸投げする形にしたわけだ。

緩和以前から自粛はザルだったが

もちろん、県ごとの自粛緩和で新型コロナの蔓延が勢いを増す懸念もある。日本全体の感染者数、死者数は、自粛期間中も増加を続けており、終息の気配が見えたわけではない。自粛要請を止めることで飲食店などが再開すれば、それがきっかけになって感染者が増えることも十分に考えられる。

4月16日に非常事態宣言が全都道府県に拡大されるまで、地域ごとにかなりの温度差があった。全国に拡大する直前の名古屋市内では「飲み納め」に大勢の人が繰り出し、専門家らは感染拡大への危機感を募らせた。

また、営業を再開した場合、県外からの来訪者をシャットアウトできるかという問題もある。ホテルや飲食店が営業再開すれば、それをめがけて県外からも人がやってくる。現状ではそれを強制的に遮断する術がない。

実際、緩和前でも営業自粛に応じないパチンコ店の駐車場には県外ナンバーが目立つという。マイカーで旅館に直行すれば何のリスクもない、と考える人がいてもおかしくない。

「どこかでクラスターが発生すれば、営業自粛などの対応を取ることになる。自分だけは大丈夫という考えは絶対に捨ててほしい」と5月5日の会見で西村康稔経済再生担当相は述べた。

営業自粛の緩和は知事が決めれば良いが、感染が拡大したら責任は県知事にあると言わんばかり。実際に自粛要請を解除しても、多くの人が「自分ももしかしたら」と考えて行動自粛を続ければ、店の経営は成り立たない。それでも国は営業補償はしない、という理屈に聞こえる。

結局、新型コロナの感染者数が明確に減少しない中で、営業自粛要請の撤回に踏み切らざるを得なくなったのは、資金繰り対策や休業補償など政府の対策が後手に回ったため。

米国では3月27日に発効していた全国民への一律の現金給付も、日本では政府が右往左往した結果、法案成立は米国から1カ月以上遅い4月30日になった。しかも、支給に時間がかかるため、営業自粛を要請すれば、体力のないところは破綻することになる。もはや自粛緩和以外に道がなかったということなのだ。

だが、これはかなりの「危険な賭け」と言えるだろう。自粛緩和によってクラスターが発生すれば、今度は強力な「営業停止」などに踏切らざるを得なくなる。

欧米で実施したロックダウン(都市封鎖)が避けられなくなれば、これまで1カ月に及ぶ自粛が水泡に帰すだけでなく、さらに深刻な経済危機がやってくることになりかねない。