2020年9月22日火曜日

コロナ渦の影響を受けているのは誰か

 コロナ渦によるパニックが起きてから,およそ半年が経過しました。学校の一斉休校,緊急事態宣言による飲食店の営業自粛,それに伴う従業員の雇止め,巣ごもり生活…。国民の生活に,前代未聞の計り知れない影響をもたらしています。

 テレワークの普及,時差通勤,対面式の取引の見直しなど,これまでの社会の変化を促すプラスの影響もありますが,やはりマイナスの影響のほうが大きいと言わざるを得ません。失職,収入減少,そして孤独といった生活不安です。

 それによって社会に暗雲が立ち込めているのですが,社会のヤバさ(病み)の度合いを可視化するのに最もいいのは,自殺の統計量です。絶望して自ら命を断つ個人はどれほどいるか。自殺とは,個々人の多様な動機でもたらされるものですが,それを集積すると,社会の状態を反映した,一定の傾向性も見えてきます。

 3~8月の半年間の自殺者数を,2019年と2020年で対比すると,以下のようになります。資料は,厚労省による自殺の詳細集計結果です。


 予想に反してといいますか,3~6月の自殺者数は前年より減っています。コロナ渦への対策という,共通の目的ができたので,国民の連帯感(つながり)が強まった,有事や突発的な危機状況の時には,社会の自殺率は低下する。デュルケムの『自殺論』の説を援用する論者もいましたね。

 しかし7月は前年を上回り,8月は前年同月より246人も増える事態になっています。コロナ渦が長期化する中,貯蓄が底をついた,延々と続く孤独に耐えられなくなった,このように生活態度が不安定化している所へ,地獄のような酷暑が追い打ちをかけた…。いろいろ想像をめぐらすのは容易いことです。

 ここまでは新聞等でも報じられたことですが,次に問うべきは,社会のどの層において自殺が増えているかです。この点を掘り下げることで,事態により接近することができます。

 まずは性別(gender)です。上記の表のデータを,男性と女性にバラしてみると以下のようになります。左は男性,右は女性の自殺者数の対前年比較です。


 男性は7月まで前年より減っており,8月もちょっとばかり増えた程度です。対して女性は6月に前年を上回り,7月,8月になるにつれ増加率が高まっています。8月は,前年の464人から650人へと186人の増,1.4倍に増えました。

 8月の自殺者は前年より246人増えましたが,うち186人(75.6%)は女性だったことになります。自殺が増えているのは,主に女性であると。コロナ渦は,男性より女性の「生」に影を落としています。

 女性は非正規雇用が多いので,簡単に解雇され生活苦に陥った,在宅している夫からのDV,果ては巣ごもり生活で望まない妊娠をした…。こういうことが考えられますが,年齢層別のデータも見た後に,大よその見当をつけましょう。

 原資料では,10歳刻みの年齢層別の自殺者数も計上されています。性別も絡めることができます。以下の表は,自殺者がかなり増えた8月の対前年比較です。年齢不詳の自殺者もいますので,上記でみた全体数と総和が一致しないことに留意してください。


 上段をみると,8月の自殺者の増加率は,10代や20代で大きくなっています。10代は2.1倍,20代は1.4倍の増です。数は少ないものの,子どもや若者の危機が大きいことは見逃すべきではありません。

 大学生について言えば,キャンパスで友人にも会えず,自宅で悶々とオンライン授業を受ける中,メンタルを蝕まれています。医療ベンチャーの「ジャパンイノベーション」の調査では,大学生の4割に「うつ症状」ありという,驚愕のデータが示されています。バイトができないことによる生活苦に加え,就職や未来はどうなるかといった将来不安も大きいはず。若者にあっては,見通しの悪さと自殺率は非常に強く相関していることを,先週のニューズウィーク記事で指摘しました。

 さらに男子と女子に分けると,コロナの危機がどこに集中しているかが分かります。どの年齢層でも,男子より女子の増加率が高くなっていますが,飛びぬけているのは10代の女子です。昨年は10人だったのが今年は40人,4倍に増えています。

 10代といえば多くが生徒・学生ですが,学校段階別の自殺者数をみると,「!」という事実が出てきます。以下に示すのは,中学生,高校生,大学生の自殺者数の対前年比較です。


 8月の自殺者数をみると,女子中学生では4倍,女子高生では7倍に激増しています。8月だけでは数が少ないので,コロナ渦がまん延した3~8月の半年のデータで傾向を固めてみても,女子中高生の自殺の増加率は際立っています(下段)。

 はて,どういうことか。このデータをツイッターで流したところ,家庭内での性暴力被害があるのではないか,という声が多数でした。巣ごもり生活の中,家族や交際相手からの被害を受けてしまう。親密な間柄なので,被害を訴えにくい。女子高生の妊娠相談が増えているというのは,ニュースでも報じられたところです。

 ティーンが馴染んでいるSNSを介した,相談体制の網を張り巡らせることが急務です。最悪の行動に走ってしまうか否かは,当人がどれほど社会に包摂されているかによります。そうしたインクルージョンは,リアルである必要はなく,デジタル(バーチャル)を介したものでもいいのです。コロナ渦で対面接触が制限されている中,後者の重要性が増してきています。

 今回のデータで分かったのは,コロナ渦の闇は,社会の弱い層に集中してしまっていることです。自殺対策というと,中高年層や高齢層がターゲットにされることが多いのですが,若年層にも目を向ける必要がありです。言わずもがな,対策の仕方も大きく違います。

 あと一つ,若者は,生存権を守る最後の砦の生活保護を非常に受けにくいというのは,大きな問題です。22歳の女性が生活保護申請した所,「親に頼りなさい」と役所に門前払いされた,という記事が目につきました。22歳にもなれば,親と別居し自立するのが当たり前と考えられている欧米では,まずあり得ないことでしょう。

 「若いというだけで,助けてもらえないのか」。こんなふうな思い込みを持たせては,若者を追い詰めるだけです。私は法律面は詳しくないですが,家族に頼れと言って,申請書類を突っぱねるのは違法であるはず。弁護士さんは,生活保護の申請同行のような事案に強くなってほしいと思います。今後,爆発的に需要が増すのは間違いありません。