No. 1289 健康は個人の問題ではない

新型コロナウイルスにより各国で入国禁止や隔離措置がとられていたが、日本を含め感染が減少した国では、制限を緩和しながらも感染の第2波を警戒するなど、新たな段階に入ったといえる。

ウイルスのまん延で明らかになったことの一つは、健康は個人の問題ではないということである。人間は集団で生きる種であり、そのために自分の健康は他の人の健康に依存している。だからこそ国民の健康は公的に守られるべきであり、国民皆保険制度が必要なのだ。日本の国民皆保険制度は、国が国民の健康を守るために作られた社会保障制度であり、それを外圧によって壊すような愚を犯してはならないのである。

米国企業が日本でビジネスをする上で日本の国民皆保険制度は邪魔だとする米国は、先進国で唯一、国民皆保険制度が無い国である。米国の自己破産理由の第1位は医療費であり、医療費が桁違いに高いのは利益を最大化するという資本主義にのっとって自由に価格設定ができるためである。

国民皆保険制度のある日本では、自由競争は禁じられ国が医薬品や治療費の価格を統制している。米国で民間の医療保険に加入している人が、医療費を日本並みに抑えるには月に数十万円の高額の保険料を支払う必要があるのだ。米国の医薬品会社は、民主党にも共和党にも巨額の政治献金を行っていて、政治家も当選するために資金が必要なため、どんなに国民が要求しても医薬品を値下げすることはない。米国はこの仕組みを自由貿易協定で国外にも持ち込もうとしているのである。

新型コロナ感染で米国では貧困層や黒人が数多く亡くなった。彼らの多くはテレワークに移行できないサービス業で、具合が悪くても仕事を休まなかったり、食事はファストフードなどに偏りがちで多くの人が肥満や糖尿病など身体的な問題を抱えていたという。

フランスの感染症専門家は新型コロナ感染症で重症化するリスクとして、心臓病や糖尿病といった基礎疾患のほか、肥満の若年層も気をつける必要があると警告していた。米国では特に低所得層、貧困層を中心に成人の4割が肥満であり、もはや国民病ともいえる。

米国政府は新型コロナで2兆ドル(220兆円)の経済刺激対策法案を成立させたが、中身はウォール街と大企業を公的資金で救済し、残りは働く貧困層への支援、その他の国民へはわずかな給付金の提供だった。米国を動かしている金融資本家にとっては新型コロナも好機であり、上位階層への富の移動に役に立っている。こうして米国はますます超格差社会になっていくのである。

これまで日本は金融資本家やグローバリズム推進者によってどんどん米国のように変えさせられてきたが、10万人という世界最多の死者を出し、3月の非常事態宣言以降、失業件数は3600万件を超えた米国が、日本が目指すべき国ではないことも新型コロナは露呈したといえよう。