八代尚宏『日本的雇用・セーフティネットの規制改革』

 八代尚宏先生から、最近書『日本的雇用・セーフティネットの規制改革』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

日本的雇用・セーフティーネットの規制改革

日本的雇用・セーフティーネットの規制改革

  • 作者:八代 尚宏
  • 発売日: 2020/12/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 第2次安倍政権下における雇用・社会保障政策が幅広くレビューされ、将来の方向性が提案されています。感染症対策をふくむアベノミクスの評価にはじまり、長時間労働とテレワーク、同一労働同一賃金と非正規雇用問題、解雇の金銭解決、女性の活躍推進、全世代型社会保障などの最近のトピックが縦横無尽に語られています。
 長年にわたり規制改革のアイコンとして活躍してこられた八代先生だけに、この間の「国民の人気取りで野党の政策を横取りするような」政策には批判的で、日本型雇用からジョブ型雇用へのシフトや、年金支給開始年齢の引き上げといった根本的な政策が必要と訴え、その手法については大筋において規制ではなく市場を活用すべきと主張しておられます。正直「40歳定年」のようなオワコンを担ぎ出しているのはいかがかとも思いますが、全体には頷かされる議論となっています。特に核心に迫っていると感じた一部を引用します。

…いくら社員が競争しても、組織が拡大せず、その成果が乏しい低成長期には、「可能性の乏しい昇進機会をめぐり、大勢の社員が馬車馬のように働く」不毛な結果となる。今後の低成長期には、出世競争は一部のワーカホリックな社員に委ねて、大部分の社員は、各々の得意とする専門的な業務に専念するジョブ型の働き方が相対的に増えることが望ましいといえる。
…1990年代初めからの長期の経済停滞期には、過去と同じような社員の生涯を通じた教育・訓練を続けることは、もはや過剰投資となっている。(p.54)

 日本型がいいとかジョブ型がいいとかいった質的な問題ではなく、「相対的に増えることが望ましい」という量的な問題であること、問題は人材が育たないことではなく、人材への過剰投資、つまり人材を育てすぎていることであることなど、きわめて適切な指摘と思われます。
 ただ、実際にやろうとすると、生計費賃金や企業福祉に依存した社会システムのかなりの部分に影響が出るので(たとえば教育の費用負担を保護者から社会に移すとか)、そこが難しいところですが、だからこそ政治が長期的ビジョンをもって取り組まなければならないということなのでしょうが…。