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8月4日(木) 参院選の結果とたたかいの課題 [論攷]

〔以下のインタビュー記事は安保破棄中央実行委員会の機関紙『安保廃棄』第495号、8月号に掲載されたものです。〕

 改憲と大軍拡を止めるために何が必要か

◇今回の参議院選挙の結果をどのように見られますか。

 自民が支持減らして勝った理由

 五十嵐 自民党は勝ったというより勝たせてもらった、野党が負けたといったほうが良いのではないでしょうか。野党側のある種の“オウンゴール“だったと思います。自民党は支持を減らしたのに全体としての議席を増やし、改選過半数を獲得しました。その結果、公明党が1議席減らしたのに与党議席で参議院の多数を維持することができたのです。
 しかし、自民党の比例票を昨年の総選挙と比較すれば165万票も減っています。議席も1減っており、有権者比の絶対得票率は16.8%にすぎず2割未満です。
 自民党は支持を減らしていたのに、なぜ議席を増やすことができたのか。それは野党が1人区で「1対1」の構図に持ち込むことができず、自民党が28勝4敗と圧勝したからです。
 立憲民主は野党第1党として野党をまとめて自民党と対抗する陣立てをつくる責任がありました。しかし、共闘に対して後ろ向きで十分な役割を果たすことができませんでした。そのために期待を裏切って信頼を失い、とくに1人区で勝てず、大きな敗北を喫しました。共産党は比例で総選挙から56万票減らし、議席も6から4に後退しています。維新が議席を増やしたのは、生活苦に不満を持つ中間層の受け皿になったからではないでしょうか。

◇野党が前進できなかった原因はどこにあると思いますか。

 政権すり寄りで野党共闘が後退

 五十嵐 端的にいえば、総選挙の総括を間違えたからです。その結果、とるべき方針とは逆の方向を選択してしまった。戦術的失敗と戦略的混迷です。
 戦術的失敗というのは、「野党は批判ばかり」という批判にたじろいでしまったことです。国民民主の場合は「対決よりも解決」として政権にすり寄り、立権民主も「対案路線」に転換し、選挙前の通常国会では政権批判を十分展開できませんでした。結局、「翼賛体制」づくりの波に呑まれたということです。これでは政権を追い込めません。
 2つ目の戦略的混迷とは、野党共闘の重要性を理解できなかったということです。野党共闘の意味は、当面の選挙で勝つための戦術というレベルにとどまりません。政権交代を単独で実現できない以上、立権・共産・社民・れいわの立憲野党による連立政権を戦略目標として追求するしかありません。この点で腹をくくらなければならなかったにもかかわらず、その位置づけが不十分で共闘に腰が引けたまま本気の取り組みができませんでした。
 総選挙の時は市民連合を仲立ちにして政策協定を結び、各党首が署名しました。しかし、今回は口頭了解で、32の1人区のうち、ようやく実現した11選挙区での共闘も形だけにとどまりました。複数区でも、野党が共闘すれば勝つ可能性がありましたが、それを汲みつくせず、野党は負けるべくして負けたと言えます。
 
◇選挙後の岸田政権の特徴とたたかいについて。

 改憲・軍拡が容易ならざる局面

 五十嵐 容易ならざる危険な局面に立ち至ったと思います。
 昨年の衆議院選挙で改憲議論に反対しない勢力が3分の2を超えていますし、今回の選挙でも、自民・公明・維新・国民民主が3分の2を大きく超えました。
 昨年の総選挙以降、衆議院の憲法審査会では予算審議と併行して議論したり、毎週議論したり、自民党の改憲4項目についても議論するなど、暴走が始まっています。今後は衆議院と歩調を合わせて暴走する危険性があります。自民と維新、公明と国民の間の違いがありますが、今後は改憲発議に向けて動き出す可能性もあり、それを阻止する運動が重要になってきます。
 また、岸田政権は年内に改定される国家安全保障戦略など3文書に大軍拡方針を書き込むこと、来年度予算に向けて軍事費を増やし、5年以内にGDP比2%、11兆円にまで増大することをめざしています。「反撃能力」=「敵基地攻撃能力」保有は、国連憲章の禁止する先制攻撃につながります。軍拡競争の激化を招くことは確実です。

 9条の役割を歴史に即し明確に

 この問題で大事なのは、憲法9条のありがたさ、これを変えることで失うものの大きさを説得的に発信することです。憲法9条は戦争に巻き込まれることを防ぐ「防波堤」です。逆に、安保条約=日米軍事同盟は日本を戦争に引き込む「呼び水」でした。
 その実例は、アメリカが始めた不正義のベトナム戦争やイラク戦争です。安保があるために日本は協力させられましたが、憲法9条があるために全面的な参戦は求められませんでした。ベトナムに自衛隊を送らなかったことは非常に大きなことです。韓国は延べ30万人の兵士を送り、5千人近い若者が命を失っています。日本は憲法9条の制約によって、このような悲劇をまぬかれました。
 イラク戦争で自衛隊はイラクに派遣させられましたが、サマワで陸上自衛隊は給水や道路補修などに従事して戦闘には加わっていません。殺すことも殺されることもなかった。イラクに行った自衛隊は9条のバリアーに守られていたのです。9条を変えることはこのバリアーをなくすことになります。このことを国民に思い出してもらうことが大切です。

 米軍基地・安保のない構想を

 沖縄の米軍基地も日本や沖縄にとってだけでなく、アメリカにとっても無いほうが良かったのです。ベトナム戦争でアメリカの若者が5万8千人も亡くなっています。アメリカはトンキン湾事件をでっちあげてベトナムに軍事介入しましたが、ベトナム戦争で国際的地位を低下させ、ドルの支配力を弱め、多くの若者を失いました。
 沖縄の基地がなければベトナム戦争に介入していなかったかもしれません。あれだけ長く続けられなかったかもしれない。アメリカは基地があったから、戦争という強硬手段に出てしまった。
 いま、アメリカが中国包囲網を強めて「台湾有事」が危惧されています。この問題でも、沖縄や南西諸島に米軍や自衛隊の基地が無いほうが良いのです。アメリカが始めるかもしれない戦争にブレーキがかかるからです。近くに基地があるからということで戦争を始められたら大変なことになります。戦争しにくい状態をつくっておくことこそが戦争を防ぐことになります。この点でも、沖縄の基地を1日も早く撤去することが重要です。
 日本は、本来であれば憲法9条に基づいて平和外交ビジョンを示さなければなりませんでした。それは、①必要最小限の防衛に徹して海外派兵を行わない、②軍事同盟に加盟せず外国の軍事基地を置かない、③仮想敵国をつくらず、対立する国のどちらにも加担しない、④東南アジアの非核武装地帯を東北アジアにも拡大する、⑤すべての国を含む集団安全保障体制を東アジアに構築するというものです。
 このようなビジョンの実現をめざして安保条約のない平和構想を示さなければなりません。それが9条改憲を許さない世論作りにも、大きな力になると思います。


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