だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

バーチャルレクチャー空き家活用と移住定住指南(2)

2022-11-30 17:18:05 | Weblog
 中山間地域の空き家活用を考える場合に押さえておかなくてはならないのは、田舎では一軒の家は孤立した存在ではないということです。一つは地域の生態系や景観の中の位置づけがあるということ。農家は農地、山林があっての宅地と家です。農家の空き家を引き継ぐということは農地と山林も引き継ぐということになります。もう一つは集落の中の位置づけがあります。江戸時代の昔から集落の寄り合いで水路や草地の管理運用、お祭りの開催などを相談し、各家がそれぞれの役割を果たしながら力を合わせて暮らしてきました。今でも集落の自治はしっかり維持されています。空き家を引き継ぐということは集落の一員になるということです。こういう広がりの中で一軒の家をとらえる必要があるのが、例えば都市近郊の住宅団地の家とは訳が違う点です。
 田舎でどこに行っても聞くのが、ある日空き家に突然知らない人が入ってきて、自治会にも入らないし家の周りの草刈りもしないし、あげく近所とトラブルを起こして、結局出て行ったという話です。こうなるとお互いに不幸ですね。
 私たちは数年前に岐阜県恵那市飯地町の空き家を購入してリノベして暮らしています。宅地と家だけあれば良かったのですが、家主さんは農地と山林もいっしょにということで、長く耕作放棄されていた田んぼとスギヒノキを植えてまったく管理されていない山林がついてきました。山林などは家主さんもその場所を知らず、公図を渡されただけです。私たちはそれでは、ということで、ススキを刈り、木を伐って、引き継いだ土地を少しずつ里山として再生させる活動をしています。
 またこの家は「紺屋(こうや)」という屋号がありそれを引き継ぐ形になっています。挨拶する時は「今度、紺屋に入りました高野です」ということになります。紺屋は江戸時代から続いた家で、その歴史と集落の中での存在を引き継ぐことになります。地域の草刈りデビューし、お祭りの担当(当元)も班の皆さんに教えていただきながら一緒に担います。
 中山間地域で空き家を引き継ぐということは単に家屋を引き継ぐということではないという点に留意しながら、どうやったら活用できるようになるのか以下で考えていきたいと思います。
 
 中山間地域にたくさんの空き家があるのに、行政の空き家バンクにはほとんど物件が載っていません。それは空き家の家主がその家を「親がいなくなった実家」ということで空き家とは認識しておらず、貸したり売ったりする発想がないし、仮にそういう気持ちが生まれたとしても「6つの困難」によってその気が失せるということでした。つまり誰かが「貸したり売ったりしましょうよ」と家主さんに働きかけをしないといけないわけです。
 そのやり方は主に3つあって、地域住民主導でやる場合、行政がやる場合、民間事業者がやる場合です。
 まず正攻法は地域住民主導で取り組むものです。家主さんに空き家を活用しましょうという話を行政職員が持っていってもなかなかうまくいきません。「税金を取ろうというのか」というような警戒感が先に立ちます。それで、やはり地域の親戚筋の人とか、同級生とか、近しい人が声をかける必要があります。
 しかし、普通は他人の財産のことに口を出すのは集落の中で最もタブーとされていることなので、そんな声かけを積極的にしたいという人はいません。普通の地域はそういう状況で何事も起こらず、空き家は放置されたまま朽ちていきます。
 今、全国には「移住のホットスポット」というべき移住者が集中してやってきている地区があります。その隣の地区には誰も来ていない。それは何が違うかというと、「他人の財産に口出ししない」というタブーをあえて破って、積極的に家主さんに働きかけをする人がいる地域です。
 それは一人でできるものではありません。まず地域住民で集まって、地域の将来についてみんなで考える機会を持つ必要があります。このままでは子どもはいなくなり、地域は消滅してしまう。なんとかしようじゃないか、それには移住者を受け入れるしかなく、そのためには空き家を活用してもらう必要がある、という話をして、地域ぐるみで空き家活用・移住定住支援に取り組むということです。
「移住ホットスポット」では、たいてい住民自治組織の中に「移住定住委員会」、「転入対策委員会」、「空き家の会」などなど、空き家活用と移住定住支援に取り組む組織ができています。私がアドバイザーをしている岐阜県瑞浪市大湫町では、転入対策委員会が2ヶ月に1回開かれています。委員会ではこの間の空き家の発生状況が共有され、家主への声かけの結果が報告されて、次にどうすれば良いか作戦を具体的に話し合います。
 この町では空き家が出た場合に、息子さんなど新しい家主さんが地域に来た機会をとらえて、「この家をどうしますか?できたら親族の方の誰かに住んでもらえるとありがたい。そうでない場合は、貸すか売るかしてほしい」ということを伝えることを、町として取り決めています。
もちろんすぐに「貸します、売ります」という家主はまずいないのですが、家主が空き家の管理に来る機会を上手にとらえて、「その後いかがですか?」と粘り強く声かけをします。空き家や農地の管理で困ったことがあれば相談に乗ります。そうやって何年か経つと、管理に疲れてきた家主が「そろそろ何か考えたいです」ということになります。「親の三回忌が済んだら考えます」という話もよく聞きます。つまり何年も粘り強く声かけをする必要があるということです。最初の声かけから10年たって家主さんが活用する気になったという事例も聞きます。
 途方もないことと思われるかもしれませんが、移住ホットスポットでは誰かがこうやって粘り強く取り組んでいるわけです。そういう人がいなければ地域は消滅していくということです。
 いくつかのホットスポットでの観察によれば、そういう取り組みを中心的に担っているのは、地域で生まれ育ち、現役時代の最後は役場の幹部だったとか、郵便局長、学校の校長、会社の社長など、そういう責任ある役職にいた人が、リタイア後に地域の将来に危機感を抱いて立ち上がった男性が多いです。地域活動を長年熱心にやってきたシニア世代の女性の場合もあります。そういうリーダーについていく地元シニアのフォロワーがおり、さらに移住してきた若い世代の人たちがタッグを組みます。そこに行政のサポートが入る場合が多いです。地区の振興事務所、支所など役所の出先が事務局を担うパターンです。
 では、家主さんが少しその気になったとして、すぐに直面する「6つの困難」をどう乗り越えたら良いでしょうか。(つづく)
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