だいずせんせいの持続性学入門

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バーチャルレクチャー空き家活用と移住定住指南(3)

2022-11-30 17:21:01 | Weblog
 愛知県豊田市旭地区敷島自治区で空き家活用の取り組みを進めている安藤征夫さんは、空き家活用・移住定住支援に関する私の「師匠」です。彼が多くの空き家の家主さんと対話する中で、家主さんが困っている「6つの困難」と、その解決方法を明らかにしてきました。要は家主さんの気持ちに寄り添い、一緒に解決策を模索していくということです。その知見を以下にまとめてみました。
1) こんな古びた家を貸せるはずない、家を修理できない
 空き家は空き家になった時点でかなり傷んでいることが多く、さらに年数が過ぎると雨漏りなども始まります。こんなボロ屋に住みたいという人がいるはずはない。貸すとなると大家として修繕しないといけないが、それには数百万円のお金がかかる。そんなお金は出せない、ということです。
 それに対して、移住者希望者にはいろんな人がいて、きれいに改装された家よりも、多少傷んでいる家を自分好みに改修して住みたいという人もいる。家の修繕は家主はしなくて良いので、現状のまま貸せば良い。ただし、入居者が家をいじっても良いということと、その分家賃を安くしてほしい、ということを説明します。売買の場合は、いずれにしても建物の評価額はほとんどの場合ゼロなので、現状のまま売れば良い。最近ではどこの自治体も空き家バンクで入居した場合は、空き家を改修するための補助金を準備しているので、入居者がそれを使って改修できるということを伝えます。
2) 家財道具が残っている
 たいていは、現家主さんのお父さん、お母さんが暮らしていたそのままの荷物が家に残されています。それを片付けることを考えると途方に暮れてしまいます。空き家の荷物の片付けは私もやったことがありますが、15人ほどで2日かかり、廃棄物が1立方メートルのフレコンバックで20杯以上出ました。これを少人数でやろうとすると確実に心が折れます。
 この問題については、必要な荷物だけ持って行ってもらい、あとは放棄してもらいます。それを地域やボランティアで片付けるという手があります。愛知県豊田市おいでんさんそんセンターでは、「空き家片付け大作戦」というイベントにして、地域の人だけでなく遠方からもボランティアを募って片付けをやることもあります。また、自治体によっては片付け費用の補助金があるので、これを使って入居する人が片付けるという手もあります。賃貸の場合、必要なものは蔵や2階などにとりあえず入れておいて、その場所は貸さないという契約にするという解決法もあります。
3) 手続きが面倒くさい
 現家主のお父さんが亡くなっても土地建物が相続登記されていないことが多く、場合によってはおじいさんの名義のままになっていたりします。また田舎の場合、建物が登記されていないことが多いです。これらを解決しないと貸したり売ったりできないし、空き家バンクにも登録できません。どういう手続きをすれば良いのか見当もつかないし、誰に相談したら良いかもわからない。費用もかかるでしょう。家主さんからすれば当面困っていることではないので、先送りにしていることが多いです。
 こういう場合は、家主さんには、あなたも大変だと思うが、これを放置しておくと、こういう面倒があなたの子どもたちに降りかかることになる。相続の問題は時間がたてばたつほど解決が難しくなる。あなたの代で、この機会に解決しておきましょうよ、という話をします。司法書士さんに相談すればどうすれば良いか分かるし、手続きを依頼すれば進めてくれます。自治体によってはこのような登記に関わる手続き費用の補助金を用意しているところもあります。
4) どういう人が入るかわからない
 どこの田舎に行っても、空き家に突然知らない人が引っ越してきて、地域の人たちと上手くいかず、トラブルとなって結局出て行った、という話を聞きます。そういう場合に、地域の人から「どうしてあんな人を入れたのか」と家主が責任を問われることになりかねません。
 このようなトラブルになった場合、移住してきた人も不幸です。そういうミスマッチのないようにしなければなりません。そのための仕組みが地域面談です。愛知県豊田市の空き家情報バンクの場合、移住希望者はこの家が良いとなったら、契約前に地域の皆さんとの面談に臨みます。地域側は自治会長やご近所、移住定住委員などの役員に家主さんが加わります。地域側からは、地域の説明、自治会の説明(自治会費や活動内容など)、消防団などの地域活動の説明などをします。移住希望者は自己紹介をして、ここでどういう暮らしをしたいかという話をします。複数の希望者がいた場合は、面談が終わった後、地域側でどの人を受け入れるかを判断します。希望者が一世帯であっても、地域側から拒否されたら契約に進めないという仕組みです。私もその場に同席したことがありますが、なかなか厳しい意見が出ます。意見が分かれれば投票となります。家主さんの意見はもちろん尊重されますが、これからずっと付き合っていくのは地域の人なので、その判断も同様に尊重されます。
 一方で、そうやって入る人を決めるということは、地域側にその人に対する責任が生じるということでもあります。家主一人の責任にはならず、仮にトラブルが発生した場合は、地域が主体的に解決に乗り出さなければならないということです。その分家主さんの心の負担は軽減されることになります。
 豊田市の空き家情報バンクの場合は、地域面談は移住者に対する一種の「面接試験」となっています。これは住民自治組織が行うからこそできることで、行政がやれば公平性の観点から疑義が出ることになります。「試験」とまではいかなくても、移住希望者と地域との何らかの面談の機会を持つことは、お互いのミスマッチを防ぐという意味で必須です。
 地域面談を経て移住した人に話を聞くと、面談に臨むときはドキドキしたが、結果としてとても良かったという声を聞きます。地域に入る前に地域のことを知ることができて心の準備ができるし、顔役の皆さんと顔つなぎができることで、困った時に誰に相談すれば良いかがわかるのでたいへん心強いということです。
5) 仏壇がある
 田舎の家には絢爛豪華な仏壇が置かれていることが多いです。空き家になった時に、これをどうするかも家主さんは途方に暮れてしまいます。先祖代々の位牌が安置されていて、家の中の聖域です。このままで人に貸すというのは抵抗があるし、売るとしたらこれを片付けなくてはいけない。どうすれば良いのか見当もつきません。
 このような家主さんに対しては、大事なのは位牌ですよね、という話をします。亡くなった人の魂は位牌に宿っていると考えられ、これを身近に置いて祀ってきました。その入れ物が仏壇です。ご先祖様の魂を誰もいない空き家に置いておくのは寂しいことで、位牌は身近に持って行かれた方が良い。このままだと家と一緒に仏壇も位牌も朽ちてしまう。位牌を移せば仏壇はただの入れ物なので処分すれば良い。かつては仏壇店が引き取ってくれたが、今では中古の仏壇を購入する人は皆無なので引き取ってくれない。必要ならば僧侶に来てもらって仏壇じまい・仏壇供養の儀式を行い、専門業者に依頼して引き取ってもらうのが良い、という話をします。
 また、賃貸の場合、仏間は貸さない、仏壇は開けないなどの契約にして当座の解決とする場合もあります。
6) 時々使っている
 多いのは、最後に住んでいてなくなったお父さん、お母さんの墓参りに家主さんを含む子どもたちや親戚が集まることがあるので、人には貸せないというパターンです。そのために空き家の管理をしなくてはならず、家主さんは定期的に通って風通しや草刈りなどを行っている場合が多いです。また、都会に住んでいて現役を退いた家主さんが、実家の田畑をやりに来ているという場合もあります。いずれにしても家主さん自身が高齢化して、頻繁に来ることは難しくなっていきます。管理のための訪問の頻度が下がれば、家は確実に傷んでいきます。
 そういう家主さんに対しては、賃貸の場合は、墓参りなどの訪問の時に事前に連絡しておけば家に入れるような契約にしておけば良いという話をします。実際、そのような例を見ると、入居した家族と親戚のような付き合いになって、墓参りなども問題なく続けられています。
 また、家主さんがいつまでも家の管理とお墓参りができるわけではありません。どこかで限界がくるとしたら、一定の時期に決断して家を手放し、墓も身近なところに移すということをやらなくてはいけません。親が亡くなって「3回忌が来るまでは待ってほしい、そうしたら考えるから」という家主さんもいます。その決断を寄り添いながら待つということです。
 このように、家主さんの複雑で微妙な思いに寄り添いながら、一緒に問題を解決していってはじめて、活用できる空き家が出てくるわけです。これもたいへんなことですが、粘り強く取り組むことができれば地域は存続するし、そうでなければ消滅するということになります。
 以上のような地域側・家主側の複雑な事情があることを理解した上で、移住したいという人はどうやって空き家を探し、新たな生活を始めたら良いのでしょうか。次に移住者目線で考えてみます。(つづく)
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